1.はじめに
前回に引き続き、今回も大阪府による社会福祉法人指導監査の指摘事項をもとに、指導監査に対する対応策を記載したいと思います。
今回は、理事会について記載します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
前回に引き続き、今回も大阪府による社会福祉法人指導監査の指摘事項をもとに、指導監査に対する対応策を記載したいと思います。
今回は、理事会について記載します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.理事会の運営について~大阪府の指摘事項
理事会の運営について大阪府の文書では以下の指摘が出ていました。
理事会について (法第45条の13第4項、第45条の14第5項、第45条の16第3項)
・定款に定めがある重要な職員の任免について、理事会の決議を経て任免すること。
・決議に特別の利害関係を有する評議員(原文ママ)がいるかを確認していないので確認すること。
・理事長に委任される範囲については、理事会の決議により定めること。
・理事長は、定款に規定する毎会計年度に4か月を超える間隔で2回以上職務執行に関する報告を行うこと。
今回も、これまでのブログで紹介した論点に関するものが多く、事前に予想できた指摘事項が多いという印象です。
3.定款に定めがある重要な職員の任免
これは、私のブログ「事務局長や施設長などの選任及び解任」でも紹介した論点です。
その時のブログでは以下のように記載しました。
「社会福祉法人においても、社会福祉法第45条の13④柱書において「理事会は、次に掲げる事項その他の重要な業務執行の決定を理事に委任することができない。」として、第3号で「重要な役割を担う職員の選任及び解任」を掲げています。
これは、このような重要な使用人や重要な役割を担う職員は、法人の業務運営において非常に重要な役割を果たしているため、理事の独断で選任したり、あるいは解任してしまうと、法人運営に深刻な影響を及ぼすおそれがあることから、理事会の決議により慎重な判断を行わせるためです。」
施設長などの重要な役割を担う職員の選任及び解任は、上記の趣旨により、理事会決議を経る必要があるのですが、このあたりはあまり周知されていない傾向があります。そのため、ブログでも記載したのですが、やはりといいますか、社会福祉法人の指導監査でもよくある指摘事項として掲載される結果となってしまいました。
対応策としては、当時のブログの「3.構築すべき内部統制」でも記載しましたが、恣意的な選任や解任を防止するためにも、
「重要な使用人」又は「重要な役割を担う職員」の具体的な内容については、法人の規程に記載しておく必要があるといえます。例えば、理事会運営規程の中で定めておくというのも一つの手段です。
そのうえで、理事及び監事にも重要な使用人等の選任及び解任は理事会の決議事項であることを周知徹底させることです。そのようにすれば、他の理事からの指摘や監事からの指摘により牽制機能が働くことが期待され、決議の失念の防止につながる可能性が高くなります。
4.特別の利害関係
大阪府の文書では「決議に特別の利害関係を有する評議員(原文ママ)がいるかを確認していないので確認すること。」と記載されていますが、評議員ではなく理事の誤りと推測されます。
さて、この論点については前回の評議員会のときにも記載しましたし、また「社会福祉法人における利益相反取引の留意点」でも特別の利害関係について説明をしたものです。
以下、当時のブログの内容を再掲します。
「この理事会では、当該理事は特別の利害関係を有するため、理事会の決議には加わることはできません(第45条の14⑤)。理事は、社会福祉法人のため忠実にその職務を行わなければならないとされていますが(法45条の16①)、このような利益相反取引を行う理事は、法人のために決議を行うことは期待できないからです。
実務上は、このような理事はいったん退出していただいて決議を行うことがよく見られます。
なお、特別の利害関係を有する理事がいるときは議事録に当該理事の氏名を記載する必要があります(社会福祉法施行規則2条の17③四)。」
この論点に係る対応策についても、評議員のときと同様、堺市が確認例を記載していますので、参考になると思います。なお、堺市の資料はこちらです。
1 理事会の場で確認し、議事録に記載
2 理事会の議案について特別の利害関係がある場合は法人に申し出ることを定めた通知を発出
3理事の職務の執行に関する法人の規程で、理事が理事会の決議事項を特別 の利害関係を有する場合には届け出なければならないと規定(個別の議案の議決で改めて確認や特別の利害関係がない場合、議事録の記載も不要)
(以上、堺市の資料より引用)
5.理事長に委任される範囲
理事長は社会福祉法人の業務を執行する理事であり(社会福祉法(以下「法」)45条の16②柱書、同条同行1号)、社会福祉法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有するとされているため(法45条の17①)、原則として、理事長の業務執行に制限はないといえます。
ただし、一定の事項については理事会で慎重な決定が必要であることから、理事長単独で取引を行うことができないとされています。上記3にも記載した「重要な役割を担う職員の選任及び解任」もそうですし、「重要な財産の処分及び譲受け」や「多額の借財」などもそうです(法45条の13④各号)。
一方で、理事長の権限に対して内部的な制限を加えることもできます。ただしその場合は、当該権限に加えた制限は、善意の第三者に対抗することができないとされています(法45条の17②)。
大阪府の指摘事項では理事長に委任される範囲として「理事会の決議により定めること」とされています。
この点については、その都度理事会決議で定めるのではなく、あらかじめ理事の職務権限規程において理事長の職務権限を定めておけばよいと思います。ただし、通常、理事の職務権限規程は理事会で改廃決議を行いますので、結局は理事会決議で定めることにはなると思います。
6.自己の職務の執行状況の報告
この論点については、「自己の職務の執行状況の報告~社会福祉法人」でも取り上げた論点です。
まず、制度は以下のとおりです。
(イ)原則は3ヶ月に1回以上(法45条の16③本文)。
(ロ)ただし、定款で毎会計年度に4月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、年2回でも可(法45条の16③ただし書)
このうち、(ロ)の方を採用されている法人が多いと思います。
この論点については、まずそもそも理事長、業務執行理事がこの報告をしていないというケースがあると思います。
次に、理事長、業務執行理事が理事会で何らかの報告はしているものの、議事録に記載していないため、所轄庁の指導監査で「自己の職務の執行状況の報告を行っていない」とみなされたケースも多いと思います。
対応策としては、理事会招集通知と一緒に同封する議案書に「報告事項 理事長の自己の職務の執行状況の報告」という欄をあらかじめ設けておくことが考えられます。雛形に記載しておけば、忘れにくいためです。
また、理事会議事録の雛形の中にも「自己の職務の執行状況の報告」という欄を設けておけば、議事録への記載を忘れることも少なくなると思います。
また、注意点は決議の省略のときは自己の職務の執行状況の報告は行うことはできないという点です。
従って、事業年度において最低2回は実際に理事会を開催する必要があります。
最後に、自己の職務の執行状況の報告としてどのようなことを報告しなければならないのかという質問が非常に多く聞かれますので、当時のブログにも記載した具体例を転載しておきます。
- 決算見込
- 月次決算や四半期決算の状況
- 事業報告
- 所轄庁による指導監査の指摘事項
- 各事業部門の活動報告
- 重要性の高い契約の顛末
- 重要性の高い行政庁への届出事項や承認事項
- 過去の理事会決議事項につきその経過内容
以上、参考としていただけますと幸いです。