公認会計士・税理士 森 智幸
1.はじめに
今回も、自動仕訳システムを導入していない場合を前提とした経理業務効率化の案を記載したいと思います。
今回は、決算書の作成プロセスについてです。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.実務でよく見られる決算書の作成プロセス
まず、はじめに、実務でよく見られる決算書の作成プロセスを記載します。
実務でよく見られるのは、会計ソフトで作成した決算整理後の試算表をエクセルで編集するというものです。
このエクセルで編集する方法としては、①会計ソフトのデータをエクセルにエクスポートして編集するという方法があります。
もう一つは、②決算整理後の試算表の数字を、エクセルであらかじめ作成されたフォームに手作業で入力していくというものです。
②の方法は、明らかに手間がかかり面倒な作業となりますが、私が見たところ、中小企業や公益法人、社会福祉法人といった非営利法人で意外にも結構見られる方法です。
3.エクセルで編集する方法をやめるほうがよい理由
この2の①②に示した実務でよく見られる決算書の作成プロセスですが、この方法はやめられることをおすすめします。
結論から申し上げますと、次に記載するように、会計ソフトの決算書作成機能を使用して、会計ソフトで決算書を作成するほうがよいです。
なぜかというと、以下の2つの理由があるためです。
(1)時間がかかる
エクセルで編集する方法は、時間がかかります。
2①の方法では、会計ソフトからエクセルにエクスポートし、そのエクスポートしたエクセルを、その会社仕様の決算書になるよう、様式などを編集することになります。様式だけでなく、科目名の集約や数字の集約など、いわゆる表示の組み換えを行うこともあります。このような作業を行っていると、時間がかかってしまうことは明白です。
さらに、2②の方法はもっと、手間と時間ががかかります。
この方法だと、会計ソフトから試算表を紙に印刷し、その試算表の数字を、エクセルで作成した決算書に一つづつ入力していくことになります。これに加えて表示の組み換えを行うともっと大変です。通常、電卓で足し算をしながら数字を入力していくことになるので、面倒です。
このように、会計ソフトからエクセルに編集する方法は、時間がかかってしまうので非効率です。
働き方改革は、限られた時間で労働の生産性を高めることが目標ですが、この方法を続けているかぎり、働き方改革の目標達成は遠のいてしまいます。
(2)入力ミスのリスクがある
次に、これがエクセル編集をやめるべき大きな理由なのですが、この方法は入力ミスのリスクがあるためです。
これは、数字もそうですし、科目についても同様です。表示の誤りも財務諸表の虚偽表示の一つです。すなわち、エクセルで編集する方法は、場合によっては財務諸表の重要な虚偽表示を引き起こすリスクがあります。
入力ミスのリスクが発生する理由は、言うまでもなく人間による手作業が介在しているためです。
手作業が行われると、どうしてもミスのリスクは高まります。
従って、エクセルで編集する方法は、手作業を介することで入力ミスのリスクがあるため、やめられる方がよいと思います。
4.会計ソフトから直接決算書を作成する方法
では、どうすればよいのかというと、これは前述したように、会計ソフトを使って決算書を作成する方法を採用するのがよいと思います。
なお、その前提ですが、これは使用している会計ソフトに決算書作成機能がついていることが前提です。これがないと、決算書を作成することができません。多くの会計ソフトには、この決算書作成機能はついていると思いますが、言い方を変えると、決算書作成機能がついていない会計ソフトは使用しないほうがよいということになります。
このように、会計ソフトで作成した決算整理後の試算表のデータを、決算書作成機能を使用して決算書の様式にすれば、このプロセスにおいて、人間の手は入りませんので、数字や科目の表示ミスのリスクは極めて小さくなります。
ただし、注意すべきは、使用している会計ソフトの決算書作成機能のレベルです。
実は、会計ソフトにもレベルがあり、ときどき数字や科目の転記ミスが生じるものもあります。そのため、決算書作成機能について実績のある会計ソフトを選ぶことがよいと思います。
また、決算書の一部しか作成できない場合、業務の効率化に役立ちませんので、購入前に調べる必要があります。
従って、(イ)会計ソフトは決算書作成機能がついているものを選ぶ、(ロ)注記などを含めた決算書一式を作成できるものを選ぶ、といった点に注意する必要があります。
5.様式にこだわらないこと
実は、会計ソフトに決算書作成機能がついていることを知っていても、エクセルで編集している会社等が多いのも事実です。
なぜ、このようなことになるのかというと「これまで使用していた決算書の様式を変えたくない」という理由が、私の経験上、最も多いです。
さらにその理由を聞くと、「株主はこれまでこの様式で見ていただいているので、様式を変えると混乱する」、「経理部長がこの様式で見慣れているので、様式を変えると「見にくい」と怒り出す」といったものが多いです。
しかしながら、もう今後はこのような様式にこだわるべきではないと思います。
このようなことにこだわっている結果、経理部員は無駄な時間と手間を費やさないといけなくなってしまっています。様式にこだわっていては、働き方改革を達成できません。
従って、会社全体で意識改革を行い、働き方改革を達成できる企業文化を醸成することが必要です。
同時に、顧問の税理士やコンサルタントが、外部の意見として積極的に提案することも重要だと思います。
社内の職員が部長や役員に改革案を提言しても、なかなか受け入れてくれない会社が多く見られます。しかし、公認会計士や税理士といった資格を持つ専門家が提言すると、トップ、役員、経理部長の意識が変わり、改革が進むことはよく見られます。
今回は以上です。
参考としていただけますと幸いです。
【参考】自動仕訳の導入について
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