公認会計士・税理士 森 智幸
1.北陸新幹線が浸水、廃車へ
台風19号の影響により、長野県の車庫に停めていた北陸新幹線10編成が浸水してしまいました。
写真を見たときは、最新鋭の新幹線がこんなことになるとは、と衝撃的な思いでした。
これについて、JR東日本は、浸水した北陸新幹線については一部部品を除いて廃車とし、特別損失に計上する予定と発表しました。
今回は、この廃車予定の新幹線に係る特別損失の計上の妥当性について見ていきたいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.特別損失計上の要件
損益計算書において、特別損失として計上するには要件があります。
特別損失は、臨時的な損失を計上する区分です。従って、臨時性・異常性があることが必要です。
企業会計原則注解12では、特別損益に属する項目として、
「(1) 臨時損益 イ 固定資産売却損益、ロ 転売以外の目的で取得した有価証券の売却損益。ハ 災害による損失」
を掲げています。
なお、注解12では前期損益修正が記載されていますが、現行会計では前期損益修正は計上されなくなりました。
特別損失の計上において重要なことは、その発生原因に臨時性があるかどうかを検討することです。
ここが要件になりますので、単に当期限りの単発的な発生で、しかも金額が多額だから、という理由で特別損失に計上してはならないということです。この点は「特別損失計上の危険性」でもふれたところです。
3.廃車予定の北陸新幹線はどうか
では、今回の廃車予定の北陸新幹線についてはどうでしょうか?
結論は、特別損失で問題ないといえます。今回の廃車の原因は、台風19号という突発的な災害が引き起こした河川の氾濫による浸水によるものです。そのため、臨時性や異常性がありますし、企業会計原則注解12においても「災害による損失」が例示として掲げられています。
従って、廃車予定の北陸新幹線は、基本的に帳簿価額(一部部品は除くそうです)と廃棄に係る支出を加えた金額が特別損失として計上されるものと推測されます。
4.まとめ
「こんなの当然だろう。特に検討する論点ではないじゃないか。」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかしながら、「特別損失計上の危険性」でも記載したように、本来、販売費及び一般管理費や営業外費用に計上すべき費用を特別損失に計上することで、営業損益や経常損益を本来のあるべき金額よりも大きく見せるという「粉飾決算」が行われていることも事実です。表示の虚偽表示も立派な粉飾です。
ちなみに、財務諸表監査において、監査法人等が監査意見を出すときには、金額的重要性を1つの判断基準として使用しますが、これは会計処理だけでなく、表示についても適用します。
そのため、特別損失に計上することが妥当でないものを特別損失に計上し、監査人の指摘にも関わらず修正をせず、しかもその金額が、単独で重要性の基準値を超えていたり、他の未修正の虚偽表示とあわせて重要性の基準値を超えていたりするような場合は、監査意見は出せないということになります。
従って、特別損失に計上するには、その発生原因に臨時性があるかどうかを慎重に判断して決定する必要があります。