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残高証明書の偽造を防止する方法

公認会計士・税理士 森 智幸

1.残高証明書の偽造事例

 近年、残高証明書の偽造事例が増えています。

 背景には、パソコンの機能向上やカラープリンタの性能向上などがあります。

 残高証明書を偽造するケースとしては、横領のケースが多く見られます。例えば、経理担当者が会社等の預金を着服する場合、帳簿上の金額が虚偽であるということが発覚しないように、その帳簿上の金額と一致するように残高証明書を偽造するというわけです。

 例えば、以下のような事例があります。

 

(1)勤務先から2.7億円着服した事例(2014年10月)

 大手電機メーカーの子会社の社員が、小切手を不正に振り出し2.7億円を着服し、発覚を免れるために銀行残高証明書を偽造していた。

(2)共済会費を着服した事例(2018年5月)

 公益社団法人の歯科医師会の経理担当の女性が、会員が積み立てた共済会費を毎月約20万円引き出し、計4,822万円を着服した。このとき、発覚を免れるために通帳や残高証明書を偽造していた。この経理担当の女性は18年間1人で経理を担っていた。

2.残高証明書の偽造防止策

残高証明書
社会福祉法人を例にした残高証明書偽造防止策

 残高証明書の偽造防止の対策法としておすすめしているのは、残高証明書は金融機関から届いたときに、社長など然るべき地位の人が開封し、原本証明を行って押印するという方法です。

 つまり、金融機関から残高証明書が届いたときに経理部職員が開封してはいけないということです。

 このようにすれば、経理担当職員による残高証明書の偽造の防止可能性は高まります。

3.残高証明書の必要性

 通常の会社等であれば、期末時や中間時に残高証明書を発行してもらいますが、まれに「通帳で残高がわかるのに、なぜ手数料を払ってまで残高証明書を依頼する必要があるのか。残高証明書は不要ではないか。」という質問を受けることがあります。

 すなわち、残高証明書の必要性ですが、これには以下の理由が考えられます。

 

①通帳の偽造

 技術的には難しいかもしれませんが、通帳を偽造するリスクがあるためです。

 自分ひとりだけではなく、金融機関の職員と共謀して本物とは別の偽通帳を作るという可能性も考えられます。

 余談ですが、私は金融機関の実査・立会に行ったことがありますが、何も印刷されていないカラの通帳は、金融機関の在庫管理室に保管されています。科目は貯蔵品となります。

 もちろん、持ち出しされると重大インシデントとなりますので、鍵がある部屋で厳重に保管されています。

 

②未記帳の可能性

 通帳を提示して「残高はこの金額です」と見せられたとしても、それが期末日最終の金額とは限りません。これは未記帳の場合もあるからです。

 提示されたときの金額は通帳と帳簿の額があっているものの、実はその直後に引き出されていて、通帳残高と帳簿残高が大きくずれるということもありえます。

 

③簿外預金、簿外借入の可能性

 残高証明書であれば、該当する金融機関の支店で開設している口座と借入金が全て示されます。

 ときどき、提示された通帳や補助科目残高表と残高証明書を突合したら、帳簿に載っていない簿外口座が発覚したということもあります。

 借入金についても同様のリスクがあります。

 

 このようなリスクがあるため、残高証明書の入手は必要といえます。