· 

京都市が「高さ規制」を緩和へ~その目的は?

公認会計士・税理士 森 智幸

1.概要

 京都市は令和元年12月6日に、京都市内の一部地域で高さ規制を緩和することを決定しました。

 高さ規制を緩和する地域には、JR丹波口駅西や京都駅周辺が含まれます。JR丹波口駅から西の五条通には当事務所が入居している京都リサーチパークもあります。従って、おおむね京都リサーチパーク周辺の地域が高さ規制の緩和対象となります。

 

 地元の京都新聞によれば、

 

「下京区の五条通沿道のJR丹波口駅-西大路通間では、敷地1千平方メートル以上の事務所と研究施設を対象に、高さ規制の上限を現行の20メートルから31メートルに緩和し、オフィスの誘致につなげる。道路や隣接地の境界線からの壁面の後退や植栽の確保が条件となる。」

 

 ということです(京都新聞2019年11月11日)

 

 高さ31メートルはおおよそ9階から10階となります。なお、京都リサーチパークはもともと高さの上限が31メートルのところです。

 以下の写真に写っている大通り(五条通)の周辺が高さ規制の緩和の対象地域となります。 

五条通
JR丹波口駅から西側の五条通
五条七本松
五条七本松の交差点

2.京都の「高さ規制」とは

京都リサーチパーク10号館
建設が進む京都リサーチパーク10号館

 「高さ規制」は、文字通り建物の高さについて規制するものであり、地区で定められた一定の高さ以上の建物は建設できないというものです。

 高さ規制は、他の都市にもありますが、京都市はとりわけ厳しいものとなっています。

 その背景には、古くからの町並みを大事にするという京都特有の文化があります。

 

 京都は平安時代以後、いろいろな寺社仏閣が建立されましたし、遷都はしましたが現在も京都御所があります。また、東山など京都市を囲む山々も風情があります。このような中、高層ビルが次々と乱立すると、京都の景観が台無しになってしまいます。

 そこで、京都市は、地区ごとに高さの上限を定め、それを超える高さの建物は建設できないように条例を定めました。

 

 そのため、京都に来ると気づかれるかもしれませんが、京都市内には超高層ビルディングやタワーマンションはありません。これは、高さ規制により、このような建物を建設することができないためです。

 

 なお、京都市都市計画局のパンフレット「京(みやこ)の景観ガイドライン ■建築物の高さ編 」では、都市計画法に基づく「高度地区」について、以下の説明がされています。

 

■高さ規制の目的

土地利用及び地域特性を考慮して,居住環境の保全,自然環境や歴史的環境との調和,均衡の取れた市街地 景観の形成による京都の風土にふさわしい都市美の育成等を目的とする。

 

■高さ規制の内容

10m,12m,15m,20m,25m,31mの6段階の高さ規制を地域の特性に合わせて設定

 

■面積・割合

約 14,494 ㌶ 市街地の 97%

3.オフィススペースの深刻な不足

(1)ホテルの建設ラッシュ

 このように、京都市内の一部地域で高さ規制の緩和を行った背景には、京都市内の深刻なオフィススペースの不足があります。

 なぜ、オフィススペースが不足しているのかというと、オフィス需要に供給が追いつかないというよりは、オフィススペースの絶対数が増えないためです。言い換えると、オフィスビルの建設そのものが進まないためです。

 実はこれにも京都特有の事情があります。

 

 近年、京都はインバウンド効果で外国人観光客が激増しています。もともと、国内でも京都は観光地として人気でしたが、これに加えて日本人のみならず、外国人の宿泊客が大幅に増加しました。

 そのため、春や秋の観光シーズンでは、京都市内のホテルがなかなかとれないという事態となりました。つまり、ホテル需要に対して供給が追いつかない状況となりました。

 そこで、国内のホテル会社のみならず、海外の一流ホテル、さらには国内の不動産業者が次々とホテル建設を行うようになりました。京都市内のホテル建設ラッシュは凄まじく、空き地ができたら次に建設されるのはほぼ100%と言っても過言ではないくらいホテルが建設されます。

 

 ホテルが建設される理由は、上記のように観光客が激増している現在、ホテル営業をすれば間違いなく儲かるからです。とにかく需要が供給を上回っていますので、ほぼシーズンを通して満室に近くなるのではないでしょうか。

(2)資金力で圧倒するホテルデベロッパー

 それでも、オフィス需要に供給が追いついていないのであれば、オフィスビルの建設が進んでもよいのでは?、に思われる方も多いと思います。

 この背景には、「資金力」が関係しています。

 

 私が、ある不動産鑑定士から聞いたのですが、京都市内の土地が売りに出された場合、オフィスビルやマンション建設のデベロッパーがその土地を買おうと思っても、ホテル建設のデベロッパーのほうが資金力があるので、完全に競り負けてしまうのだそうです。

 

 そのため、京都市内ではオフィスビルの建設が進まず、ホテルの建設のほうが進んでしまうわけです。また、同様にマンションの建設も進んでいません。

 

 日経の記事「京都市、高さ規制を緩和 周縁部にオフィス呼び込む」(2019年12月6日)では「不動産の需要が高まり「一部の不動産はオフィスやマンションでは採算がとれないほどの高値」(同市)になった。」と記載されていますが、これだけだと何となくわかりにくいと思います。

 確かに供給よりも需要があると価格は高くなりますが、その背景には、前述のようにホテルデベロッパーの資金力を背景とした価格つり上げがあるというわけです。 そのため、土地の価格が高値となっているということです。

4.巨大オフィス街が誕生するのか

京都リサーチパーク
KRP地区開設30年記念式典の様子

 前述のように、京都市内は深刻なオフィスビル不足となっています。

 そのため、京都市内に事業所を構えようとしても、なかなか物件が見つからない状況が続いていると聞きます。

 

 私が入居している京都リサーチパークも、私が内覧したときはたまたま3部屋空いていたのですが、すぐに満室になったと聞きました。

 

 このような状況を見越して京都リサーチパークでは、新たに10号館を新設中です。京都リサーチパークの30周年記念式典での話では、現在約5,000人が働いているということです。10号館ができると約7,000人になるそうです。

 

 今回、京都リサーチパークの周辺の高さ規制が31メートルに緩和されたので、五条通周辺は再開発が進むと予測されます。

 京都新聞の記事によれば、事務所と研究施設が対象となるということなので、ここにホテルが建設されることはなくなりました。ちなみに、丹波口駅より京都寄りの一つ手前の梅小路京都西駅では、ホテルが2棟建設中です。ついに、このあたりまでもホテルが建設されるのかという思いです。

 

 ただし、このあたりに巨大オフィス街が誕生するのかとなると、大きなネックがあります。

 それは、交通の便がよくないという点です。一応、京都リサーチパークや当事務所も「京都駅から2駅」と謳っていますが、実はJR嵯峨野線の本数が少ないのが難点です。基本的に15分に1本です。しかも、最近は嵐山や保津峡方面に向かう観光客が急増し、朝の車両は満員です。

 他の最寄り駅となると、阪急の西院か大宮となりますが、ここから歩くとかなり時間がかかります。西院からはバスは出ていませんし、大宮からのバスは本数が少ないです。

 また、四条烏丸などの京都中心部から直通のバスは少ない状況です。

 

 そのため、このあたりにオフィス需要を呼び込むのであれば、交通インフラを整備する必要があります。

 具体的には、JR嵯峨野線の1時間あたりの本数を増やす必要があります。そうしないと、オフィス人口が増加した場合、現在の状況では首都圏のラッシュ時並の満員になる恐れがあるからです。同時に、車両の連結数も増やす必要があります。嵯峨野線は、基本的に4両編成ですが、6両編成にしてほしいところです。このような交通の不便さが解消されないと、一旦入居してもそのうち出ていってしまい空洞化してしまう恐れがあります。

 

 従って、京都市のオフィスビル不足を解消するためには、京都リサーチパーク周辺の高さ規制緩和だけでは不十分であり、交通インフラなど他のインフラと一体となって取り組んでいく必要があるといえます。