公認会計士・税理士 森 智幸
1.日本経済新聞による概要
日本経済新聞関西版によると、滋賀銀行は日本郵船に5000万ドル(約53億円)の「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」を実施したということです(期間は4年)。
記事によると、地方銀行で、単独または主幹事としてSLLを行っているのは、現時点では滋賀銀行だけということです。
2.サスティナビリティ・リンク・ローン(SLL)とは?
滋賀銀行のHPによると、サスティナビリティ・リンク・ローン(SLL)とは
「借手による野心的なサステナビリティ・パフォーマンス目標の達成状況と金利の引下げ等の融資条件を連動させた融資手法。グリーンボンド、グリーンローン等とは異なり、資金使途は限定されないことから幅広い利用が期待されている。ローンマーケットアソシエーション(LMA)等が策定したサステナビリティ・リンク・ローン原則に準拠。」
と記載されています。
また、商品の見出しである「サステナビリティ・リンク・ローン~持続可能な社会の実現に向けて~」に続く説明では、
「お客さまのSDGsやESGの取組状況と融資条件が連動し、野心的な挑戦目標を達成された場合に金利等の融資条件を優遇します。
お客さまのサステナビリティ経営をサポートし、企業価値向上と持続可能な社会の実現を同時にめざす融資商品です。」
と記載されています。
すなわち、ESG(環境、社会、ガバナンス)などについて目標を設定し、その目標の達成状況に応じて金利等の融資条件を優遇するという融資といえます。
特徴の1つは、資金使途はグリーン事業に限定されないという点です。
商品概要には「挑戦目標の例」として、
- GHG(温室効果ガス)排出量の削減
- 再生可能エネルギーの生産量又は使用量
- 廃棄物処理におけるリサイクル率(循環経済)
- 持続可能な調達(検証済の持続可能な原材料利用の増加)
- 環境配慮型商品の販売量
- その他ESGに関する指標
が掲げられています。
3.ESG重視経営の時代へ
ESGというと、どちらかというと環境面が取り上げられる傾向がありますが、S(Social:社会)、G(Governance:ガバナンス)も同様に重要です。
S(社会)の例としては、人権があります。
例えば、海外にある下請けの会社が、違法な児童労働を行っていたとします。このとき、このような違法行為を黙認して取引をしている元請けの会社は、社会的に評価されません。この場合、元請けの会社は人権問題に無関心である企業であるとして、取引先から取引を解約される可能性もあります。また、現在はESGが企業評価の指標となりつつありますので、投資家からも評価されなくなります。
ちなみに、日経ESGの記事「「現代奴隷」が経営を揺るがす 狭まる投資家の包囲網」では、強制労働や自由を奪われて人権侵害を受けている人を「現代奴隷」と呼ばれているということですが、逆に人権問題への配慮を行っている企業は株価が高いということです。
G(ガバナンス)については、これまで当事務所のブログでも記載してきたように、実効性が高いガバナンスを実現できている企業は、外部環境の急速な変化に迅速に対応でき、さらに、多様な考え方やアイデアを受け止めてイノベーションに挑戦できます。
そのため、中長期的に持続可能であり、ガバナンスが弱い企業よりも企業価値を高く評価できることになります。(「ガバナンスの強化が持続的成長と企業価値向上につながる理由」参照)
ESGが投資家による企業評価の指標になりつつある現在、今回の滋賀銀行の取り組みのように、金融機関による融資対象の選別基準としてもESGが重視される時代に入っているといえます。
そのため、ESGを確立している企業は投資家や金融機関からの評価が高まる一方、ESGに無関心な企業は評価が低くなり、結局、企業の成長や価値も低いものとなってしまいます。
これは、上場している株式会社のみならず、非上場の株式会社、さらには公益法人、社会福祉法人、医療法人などの非営利法人においても同様です。
従って、今後は、ESG(環境、社会、ガバナンス)を重視した経営を行っていく必要があります。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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