公認会計士・税理士 森 智幸
1.法務省「定時株主総会の開催について」の公表
新型コロナウイルス感染症の拡大が3月に入っても止まりません。
私が住む京都でも新たに5例目の感染者が発生したという発表が京都市からありました。
京都市は、感染者が京阪京都交通バス、京都市営地下鉄、京都市営バスを使用したなど詳しい行動履歴を公表し、市民の参考となるようにしています。(京都市のサイトはこちらです)
さて、このような中、法務省は定時株主総会の開催時期について見解を公表しました。(法務省「定時株主総会の開催について」)
法務省によると、「定時株主総会の開催時期に関する定款の定めがある場合でも,通常,天災その他の事由によりその時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じたときまで,その時期に定時株主総会を開催することを要求する趣旨ではないと考えられます。」としています。
続けて「したがって,今般の新型コロナウイルス感染症に関連し,定款で定めた時期に定時株主総会を開催することができない状況が生じた場合には,その状況が解消された後合理的な期間内に定時株主総会を開催すれば足りるものと考えられます。」とコメントしました。
これにより、例えば、12月決算の株式会社が、3月に株主総会を予定していた場合であっても、大規模な集会は自粛することが求められていることから、株主総会の開催を中止したとしても、それは法令や定款に違反するものではないということになります。
2.「3ヶ月以内」に開催と認識されている理由
法務省のページにも記載されていますが、「会社法は,株式会社の定時株主総会は,毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならないと規定していますが(会社法第296条第1項),事業年度の終了後3か月以内に定時株主総会を開催することを求めているわけではありません。」というのが法の建前です。
実際、会社法には事業年度の終了後3ヶ月以内に定時株主総会を開催しなければならない旨の条文は設けられていません。
では、なぜ事業年度の終了後3ヶ月以内に定時株主総会を開催しなければならないという認識が定着しているのかというと、会社法では、定時株主総会の議決権行使のための基準日の規定が設けられていて、基準日を定める場合には、株式会社は、基準日株主が行使することができる権利(基準日から三箇月以内に行使するものに限る。)の内容を定めなければならないとされているためです(会社法124条②)。
この点につき、法務省は「定款で定時株主総会の議決権の基準日が定められている場合において,新型コロナウイルス感染症に関連し,当該基準日から3か月以内に定時株主総会を開催できない状況が生じたときは,会社は,新たに議決権行使のための基準日を定め,当該基準日の2週間前までに当該基準日及び基準日株主が行使することができる権利の内容を公告する必要があります(会社法第124条第3項本文)。」としています。
したがって、定時株主総会を延期する場合は、改めて基準日を定めて、行使できる内容を定める必要があります。
3.有価証券報告書等は?
株式会社の中には、上場企業など有価証券報告書等の提出義務がある会社もあります。
これについては金融庁が、すでに令和2年2月10日付で、
「金融商品取引法に基づく開示書類(有価証券報告書及び内部統制報告書、四半期報告書、半期報告書)について、今般の新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、中国子会社への監査業務が継続できないなど、やむを得ない理由により期限までに提出できない場合は、財務(支)局長の承認により提出期限を延長することが認められていますので、ご遠慮なく所管の財務(支)局にご相談ください。」
と公表しています。
法令に定める「やむを得ない理由」は、天災など相当な場合でないと認められませんが、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、国家危機ともいうべき深刻な状況ですから、新型コロナウイルス関連であれば、認められる可能性が高いかもしれません。
現在は、株主総会前に有価証券報告書を提出することもできますが、実行している株式会社は割合でみるとかなり少数派です。
そのため、新型コロナウイルス感染症の拡大により定時株主総会を延期することで、有価証券報告書の提出も延期する株式会社も出てくるのではないかと予測されます。
ただ、前述のように、現在は株主総会前でも有価証券報告書を提出することもできますので、これまで株主総会後に有価証券報告書を提出していた会社であっても、例えば、12月決算の会社であれば、有価証券報告書は3月末日までに事前提出して、それ以後に株主総会を延期開催するということも可能です。