公認会計士・税理士 森 智幸
1.「新型コロナウィルス感染症への対応について」の更新
内閣府は令和2年3月19日付で「新型コロナウイルス感染症への対応について」を更新しました。
更新されたのは「新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う公益法人の運営に関するお知らせ」(以下「お知らせ」)です。
このアナウンスは、今後も随時更新される可能性がありますので、公益法人インフォメーションのトップページにある「内閣府からのお知らせ」にリンクを貼っておきます。(案内にリンクを貼ると更新後はリンク切れになるためです)
「お知らせ」には、機関運営、行政庁への書類提出、収支相償について新型コロナウイルス感染症の影響を受ける場合の行動指針や行政庁の対応が示されています。
公益法人は3月決算の法人が多いため、3月は事業計画書等の承認のための理事会開催や行政庁への書類提出の時期にあたります。そのため、多くの公益法人が新型コロナウイルス感染症による何らかの影響を受けている状態です。
そこで、今回は、内閣府の「お知らせ」についての説明と3月決算の公益法人の機関運営について具体的な対応策について記載してみたいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.社員総会・評議員会・理事会の開催
(1)令和2年4月以後の開催も可?
まず、「お知らせ」によれば、「Ⅰ 社員総会・評議員会・理事会の開催」として、
「今般の新型コロナウイルス感染症に伴う影響のように、やむをえない事由により、当初予定していた時期に開催できない場合、その状況が解消された後合理的な期間内に開催していただければ、行政庁としては、その状況を斟酌して対応いたします。」
としています。(赤ゴシックは筆者。この部分には下線がひいてあります。)
なお「斟酌」は「しんしゃく」と読みます。「相手の事情や心情をくみとること。また、くみとって手加減すること。」という意味です(コトバンクのデジタル大辞泉より)。
余談ですが、旧商法32条第2項では「公正ナル会計慣行ヲ斟酌スベシ」という条文がありました。
さて、これをどのように読むかですが、今回の場合についていえば、「本来3月に開催すべきであった社員総会、評議員会、理事会を3月に開催せず、令和2年4月以後、新型コロナウイルス感染症拡大が止まった時期に開催しても問題ない。そのようになっても今回は新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため仕方がないので、公益法人の運営体制に問題があるとはみなさない。」ということではないかと解されます(私見です)。
令和2年4月以後と書いたのは、現時点(令和2年3月)においても新型コロナウイルス感染症の拡大は止まっていないからです。
プロ野球の開幕も、当初は令和2年3月20日の開催予定でしたが延期となりました。選抜高校野球も開催中止という異例事態です。おそらく、新型コロナウイルス感染症は、3月中での収束は極めて困難と予想されます。
そのようになると、3月中に予定されている社員総会、評議員会、理事会を予定通り開催することができない可能性があります。ご存知の通り新型コロナウイルスは感染力が極めて強いため、人が多数集まると感染リスクが非常に高くなります。
従って、3月中に開催できない場合であっても、その後、新型コロナウイルス感染症が収束した時期に開催しても問題はないと解されます。
注意すべきは、これらの社員総会、評議員会、理事会の開催を省略してよいというわけではないということです。
従って、どこかのタイミングで必ず開催は行う必要があるということです。
(2)4月以後に開催したときの問題点
しかしながら、4月以後に開催する方法だと、種々の問題があります。
3月決算の公益法人の場合は、事業計画書や収支予算書の承認が3月中にできなくなります。
この点については「お知らせ」では「Ⅱ 行政庁への書類の提出」として、
「今般の新型コロナウイルス感染症に伴う影響のように、やむをえない事由により、事業計画書、収支予算書、財産目録、計算書類、事業報告などの書類の行政庁への提出が遅れる場合は、行政庁としては、その状況を斟酌して対応いたします。」
としています。
そのため、3月に理事会等を開催できなくても、その後の合理的な時期に開催し、行政庁に書類を提出しても問題はないということになります。
従って、行政庁への書類提出についてもとりあえずは安心です。
とはいえ、3月決算の法人であれば事業計画や収支予算を未確定のまま、いつまでも先延ばしにはしたくないところです。決められるのであれば、早く決めておきたいという法人が多いのではないでしょうか。できれば、例年通り3月に承認したいと考えられている法人も多いかもしれません。
この新型コロナウイルスは、暖かくなれば消滅するというものではないということなので、4月になってからも感染拡大が止まらない可能性もあります。その場合、4月になってもなかなか開催できないという事態にもなりかねません。このような事態になると作成した事業計画等がいつまでも未確定のままとなってしまいます。
本来であれば、予定通り3月中に理事会を開催できればよいのですが、多数が集まると新型コロナウイルスの感染リスクが高まります。そのため、私見ですが、実際に集まって開催する理事会は極力回避するほうがよいかと思います。
(3)3月中に乗り切る方法
そこで、3月中に理事会等を開催する方法として、「お知らせ」では「なお、これらの会議は以下の方法によっても開催できますので、ご検討ください。」として、実際に集まって開催する理事会以外の方法として、以下の方法が紹介されています。
1.社員総会
書面・電磁的方法による議決権の行使(一般法人法第51・52条)や議決権の代理行使(同50条) 、決議の省略(同58条)
2.評議員会
出席者が一堂に会するのと同等に、相互に十分議論できる環境であれば、Web会議、テレビ会議、電話会議などにより開催することもできます。決議の省略(一般法人法第194条)によることも可能です。
3.理事会
出席者が一堂に会するのと同等に、相互に十分議論できる環境であれば、Web会議、テレビ会議、電話会議などにより開催することもできます。定款の定めがある場合には決議の省略(一般法人法第96条)によることも可能です。
なお、事業計画書や収支予算書の承認は、理事会決議のみという公益法人が多いと思います。
もちろん、理事会決議に加えて社員総会または評議員会決議を行う公益法人もあります。どちらかというと評議員会を開催する公益財団法人が多い感がします。
そこで、以下では、理事会の開催方法についての実務上の留意点について見ていきたいと思います。
3.理事会の開催
(1)Web会議、テレビ会議、電話会議
(イ)環境条件の留意点
「お知らせ」では「出席者が一堂に会するのと同等に、相互に十分議論できる環境であれば、Web会議、テレビ会議、電話会議などにより開催することもできます。」と記載されています。(赤ゴシックは筆者)
この赤ゴシックについては要注意です。Web会議、テレビ会議、電話会議であれば何でもよいということではなく、「出席者が一堂に会するのと同等に、相互に十分議論できる環境」であることが必要ということです。これは、理事会は、理事が集まって、経営に関する議論を行ったり、理事を監督したりする場であるからです。そのため、一方的ではなく、相互に意見を発したり、議論したりすることができる環境であることが必要です。従って、一方的であって、他の理事の意見が全く聞こえないという状況となってはならないということです。
一方的な会議の例としては、例えば、(ⅰ)インターネットで動画のみを流すだけで、見ている他の理事は発言が全くできない、(ⅱ)ビデオで録画したものを流すだけ、(ⅲ)一部の理事は相互に会話ができるが、他の理事は画像を見るだけで会話ができない、といったことが想定されます。
FAQ問Ⅱ-6-②では、より詳細に記載されています。
以下、FAQ問Ⅱ-6-②の記載を転載します。なお、内閣府は今回の新型コロナウイルス感染症の影響によりWeb会議等の必要性が高まると想定されたためと思いますが、令和2年2月28日付でFAQ問Ⅱ‐6‐②を修正しています。
「Web会議、テレビ会議、電話会議などのように、出席者間の協議と意見交換が自由にでき、相手方の反応がよく分かるようになっている場合、すなわち、各出席者の音声や映像が即時に他の出席者に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組みになっており、出席者が一堂に会するのと同等の相互に充分な議論を行うことができるという環境であれば、Web会議、テレビ会議、電話会議などの方法で理事会や評議員会を開催することも許容されると考えられています。」
従って、Web会議、テレビ会議、電話会議の場合は、このような環境下で行えるようにする必要があるということです。
(ロ)議事録作成上の留意点
議事録の作成にも注意する必要があります。
FAQ問Ⅱ-6-②では、「例えば、Web会議で理事会又は評議員会を開催し法定の議事録を作成する場合には、Web会議システムを用いて理事会(評議員会)を開催した旨の記述や、Web会議システムにより、出席者の音声と映像が即時に他の出席者に伝わり、適時的確な意見表明が互いにできる仕組みとなっていることが確認されて、議案の審議に入った旨の記述をすることが考えられます」と記載されています。
根拠は、理事会の議事録は、理事会が開催された日時及び場所(当該場所に存しない理事、監事又は会計監査人が理事会に出席をした場合における当該出席の方法を含む。)を記載しなければならないとされているためです(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則(以下、一般法人法施行規則)15条③ⅰかっこ書き)。
従って、理事会議事録には、これらの事項を記載しておく必要があります。
(ハ)導入のハードルが低いのは電話会議?
さて、Web会議、テレビ会議、電話会議による方法が内閣府からも紹介されていますが、このうち、今から導入するとした場合、個人的には、最も導入しやすいのは電話会議かと思います。逆に、導入のハードルが高いのはテレビ会議です。テレビ会議は専用のシステムなどを導入する必要があるので、導入にコストがかかりますし、時間もかかります。
電話会議は、手元に固定電話や携帯電話があれば導入できます。NTTコミュニケーションによれば、最短で2営業日で使用できるようになるということです。
なお、最もコストが低く、便利なのはWeb会議だと思います。しかしながら、私が知っている限り、公益法人はIT化が進んでいるところが多くないという印象です。また、理事などの役員の中には、PC操作になれておられない方もいらっしゃいます。そのため、Web会議を導入できる公益法人はあまり多くないのではないかと思います。
ちなみに、Web会議のツールで私が知っているのは、GoogleのハングアウトミートやZoomですが、これらは動画が映るだけでなく、画面共有もできるので、全員で同じ資料を見ながら議論をすすめることもできて便利です。
(2)決議の省略による場合
(イ)留意点
「お知らせ」にあるように、決議の省略による方法も可能です(一般法人法96条)。
決議の省略については提案内容に制限はありません。そのため、事業計画や収支予算の承認についても決議の省略による方法で承認することができます。
注意点は「自己の職務の執行の状況の報告」です。
代表理事と業務執行理事は、原則として、3ヶ月に1回以上、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければなりません。ただし、定款で毎事業年度に4箇月を超える間隔で2回以上その報告をしなければならない旨を定めた場合は、この限りでないとされています(一般法人法91条②)。
多くの公益法人は、ただし書きの容認規定を適用されているのではないかと思います。
実は、この自己の職務の執行の状況の報告は、決議の省略による方法では行うことはできません。実際に理事会を開催して行う必要があります。
今回、ネックになるのはこの点だと思います。
まず、原則による方法を適用されている公益法人の場合は、それまでに3ヶ月に1回以上の報告を行っていて、かつ、1月か2月に理事会を開催して、当該報告を行っていれば問題はありません。
問題になるのは以下の法人と考えられます。
①原則による方法を適用されている公益法人で、12月中に理事会で当該報告を行い、次は3月中に行う予定であった法人
②容認規定を適用されている公益法人で、2回目の報告を3月の理事会で行う予定であった法人
は、3月開催予定の理事会を決議の省略を行った場合、一般法人法91条②の規定に抵触することになります。
(ロ)自己の職務の執行の状況の報告をしなくても大丈夫?
これは、あくまでも私見ですが、今回、3月の理事会を決議の省略によって事業計画書等の承認を行い、自己の職務の執行の状況の報告を行うことができなかった場合でも、今回に限っては行政庁も「斟酌」してくれるのではないかと思います。
ただし、この場合、別の理事会で、事後報告のような形にはなるものの、令和元年度の職務の執行の状況の報告を行うことが、機関運営のあり方として適切だと思います。
新型コロナウイルス感染症の拡大はいつ収束するかが全くわかりません。
そのため4月以後に理事会を実際に開催するとしても、いつ頃に開催できるのかが全く読めません。開催日が決められないと、会場も決められません。多くの法人はホテルや会館で行うことが多いですが、これだと予約もままなりません。
従って、3月中に理事会をすませるほうが実務上はよいのではないかと思いますので、決議の省略の方法をとったことにより自己の職務の執行の状況の報告ができなくても、今回に限ってはやむを得ないのではないかと思っています。
4.まとめ
最後に、3月の理事会のスケジュール案をまとめてみます。
①感染リスクがあるため、3月の理事会の実際の開催はできれば回避するほうがよい。
②4月以後の開催も考えられるが、4月以後も新型コロナウイルスの感染拡大が続く恐れもある。そのため、開催日や開催場所をなかなか決められず、いつまでたっても開催できない恐れがある。そうなると、事業計画や収支予算がいつまでも未承認のままとなってしまう。
③従って、3月中に理事会を開催して事業計画等を承認しておくほうがよい。
④開催手段としては、まず、Web会議、テレビ会議、電話会議があるが、導入のハードルが低いのは電話会議。Web会議ができればベスト。
⑤上記④の手段を取ることができなけれなければ、決議の省略による方法となる。この場合、理事の自己の職務の執行の状況の報告ができなくなるが、別の理事会で行う。
以上、参考としていただけますと幸いです。