公認会計士・税理士 森 智幸
1.経済産業省・法務省による「株主総会運営に係るQ&A 」
経済産業省は法務省とともに令和2年4月2日付で「株主総会運営に係るQ&A 」(以下「Q&A」)を公表しました。
これによると、新型コロナウイルス感染拡大防止のために株主に出席を控えることを呼びかける、入場できる株主を制限する、事前登録制の採用などといった方策をとることは可能ということです。
このQ&A は株式会社向けですが、公益法人や社会福祉法人にも参考となると思います。
とりわけ、一般社団法人、公益社団法人の社員総会の参考になると思います。多くの社団法人は社員数が多いためです。そのため、社員総会は開催規模が大きくなることが多く、新型コロナウイルス感染防止のためにどのようにすればよいか考えられている法人も多いようです。
そこで、今回は3月決算を前提として、一般社団法人及び公益社団法人の今年の社員総会の乗り切り方について対策案を記載してみたいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.「Q&A」の概要
ここでは、簡単に経済産業省が公表した「株主総会運営に係るQ&A」の概要を列挙いたします。
- 株主総会の招集通知等において、新型コロナウイルスの感染拡大防止のために出席を控えることを呼びかける→可能
- 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、会場に入場できる株主の人数を制限する→可能
- 株主総会への出席について事前登録制を採用し、事前登録者を優先的に入場させる→可能
- 発熱や咳などの症状を有する株主に対し、入場を断ることや退場を命じる→可能
- 新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、株主総会の時間を短縮すること等→可能
赤文字は筆者によるものですが、このあたりは今回の新型コロナウイルス感染拡大防止のために参考となる有効な手段ではないかと思い、赤文字にいたしました。
次の章では、「Q&A」に記載されている留意点とともに一般社団法人及び公益社団法人の社員総会運営の具体案を記載してみたいと思います。
3.一般社団法人・公益社団法人の社員総会運営
(1)出席を控えることの呼びかけ
(イ)考えられる方策
Q&Aでは「感染拡大防止策の一環として、出席を控えるよう呼びかけることは、株主の健康に配慮した措置と考えます。」としています。
これを参考にすると、一般社団法人・公益社団法人においても、同じく感染拡大防止策の一環として、出席を控えるよう呼びかけることは、社員の健康に配慮した措置といえると思います。
そこで、方策としては、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)39条①に基づいて社員総会の招集通知を発する際に、社員の出席を控えることを示した書面を招集通知と一緒に送る方法が考えられます。
また、ホームページ上においても、その旨を公表しておく方法も考えられます。
(ロ)書面や電磁的方法による議決権行使を採用する場合の留意点
加えてQ&Aでは「その際には、併せて書面や電磁的方法による事前の議決権行使の方法を案内することが望ましいと考えます」と記載されています。
そこで、書面や電磁的方法による議決権行使を採用する場合の留意点について記載します。
社員総会を招集するには、理事は、原則として社員総会の日の一週間前までに、社員に対してその通知を発しなければならないとされています(一般法39条①本文)。
ただし、書面や電磁的方法による議決権行使に係る事項を定めた場合には、社員総会の日の二週間前までにその通知を発しなければなりません(一般法39条①但書)。そのため、招集通知を発する時期に注意する必要があります。
また、書面や電磁的方法による議決権行使に係る事項を定めた場合は、招集通知は書面でしなければなりません(一般法39条②ⅰ)。とはいえ、理事会設置一般社団法人も招集通知は書面でしなければならないとされていますし(一般法39条②ⅱ)、多くの一般社団法人及び公益社団法人は理事会設置法人であることを考えると、これまでも書面で招集通知を発送していると思いますので、特段の問題はないと考えられます。
さらに、社員総会の招集の決定を行う時に、社員総会に出席しない社員が書面によって議決権を行使することができることとするとき及び社員総会に出席しない社員が電磁的方法によって議決権を行使することができることとするときは、それぞれその旨を理事会で定めておく必要があります(一般法38条①ⅲ、ⅳ、同条②)。
(2)入場制限
(イ)法人会議室を会場とする方法
Q&Aでは「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、合理的な範囲内において、自社会議室を活用するなど、例年より会場の規模を縮小することや、会場に入場できる株主の人数を制限することも、可能と考えます。」としています。
それなりの規模の一般社団法人・公益社団法人は、地元のホテルや会館の宴会場などを使用することが多いですが、今回はQ&Aに記載されているように法人の会議室に変更するという方法が考えられます。しかし、おそらく、この時期はほぼ多くの法人がホテル等の予約を行っていると思いますので、この場合キャンセルすると、キャンセル料が発生するケースが多いと思います。とはいえ、新型コロナウイルス感染症は感染力が非常に強く、命の危険がありますので、やむを得ないと思います。
なお、キャンセル料に係る消費税等の取り扱いについては国税庁のHPに記載されています。ケースによって課税関係が異なるのでご注意ください。
(ロ)場所は定める必要あり
なお、Q&Aでは「現下の状況においては、その結果として、会場に事実上株主が出席していなかったとしても、株主総会を開催することは可能と考えます。」としています。
これを参考とすると、例えば、法人の会議室を社員総会の場所として定め、会議室には事務局長と職員1名、会議室に来た出席社員はゼロ、というケースでも社員総会の開催は可能と考えられます。
ここで、とりあえず注意点ですが、もし法人の会議室を会場とする場合は、社員総会の招集の決定において場所を法人の会議室としておく必要があります(一般法38条①ⅰ)。
少し話がずれますが、今回の件で「リアル社員総会」を開催することなく「バーチャルオンリー型社員総会」を開催することはできないのかという意見もあるかと思います。
しかし、現行法では招集決定時に社員総会の場所を定める必要があるのでバーチャルオンリー型社員総会は開催できないと解されます。
なお、リアル社員総会、バーチャルオンリー社員総会という言葉ですが、これは経済産業省が令和2年2月26日に作成した「ハイブリッド型バーチャル株主総会の 実施ガイド」における「リアル株主総会」「バーチャルオンリー型株主総会」という用語を参考にして私が記載したものです。
また、「場所を定める必要」については同ガイドP4の注釈2を参照したものです。以下引用します。
「「第197回国会 法務委員会 第2号(平成30年11月13日)において、小野瀬厚政府参考人(法務省民事局長(当時))から、「・・・実際に開催する株主総会の場所がなく、バーチャル空間のみで行う方式での株主総会、いわゆるバーチャルオンリー型の株主総会を許容するかどうかにつきましては、会社法上、株主総会の招集に際しては株主総会の場所を定めなければならないとされていることなどに照らしますと、解釈上難しい面があるものと考えております」との見解が示されている。」(「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」P4 注釈2より引用)
従って、リアル総会は何らかの形で開催する必要がありますので、場所は定めておく必要があります。
(3)事前登録制の採用
しかし、それでも社員からの要請などにより、ホテル等の会場でリアル社員総会を開催せざるを得ない法人もあるかと思います。
Q&Aでは「Q2の場合における会場の規模の縮小や、入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させる等の措置をとることも、可能と考えます。」としています。
これを参考とすれば、Q&Aのように、事前登録をした社員を優先的に入場させるという方法が考えられます。
ただし、注意点としてQ&Aでは「なお、事前登録を依頼するに当たっては、全ての株主に平等に登録の機会を提供するとともに、登録方法について十分に周知し、株主総会に出席する機会を株主から不公正に奪うものとならないよう配慮すべきと考えます。」としています。
従って、社員総会でも同様に、社員全員に平等に登録の機会を提供し、登録方法について十分に周知する必要があります。
なお、私が知っている限り、社員総会を開催するときは、事前に理事、監事、社員に対して当日、出席するかどうかの出欠確認を書面で送ってもらっている法人が多いように思います。なぜかというと、多くの社員総会では、総会終了後に懇親会を開催するので、ホテルにおおよその参加人数をお知らせする必要があるからだと思います。
従って、今年に限っては、3(1)で示した出席を控えるように呼びかける方法との合わせ技で行い、当日出席する予定の社員を限定する方向に持っていく形にするのがよいのではないかと思います。
(4)その他~懇親会の中止
Q&Aでは、Q4、Q5で
「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、ウイルスの罹患が疑われる株主の入場を制限することや退場を命じることも、可能と考えます。」
「新型コロナウイルスの感染拡大防止に必要な対応をとるために、やむを得ないと判断される場合には、株主総会の運営等に際し合理的な措置を講じることも、可能と考えます。
具体的には、株主が会場に滞在する時間を短縮するため、例年に比べて議事の時間を短くすることや、株主総会後の交流会等を中止すること等が考えられます。」
としています。
社員総会でも、まず確実に行うことができるのは懇親会の中止です。
私が知っている限り、社員総会後の懇親会は、ビュッフェ形式の場合が多いですが、ビュッフェ形式ではトング等から感染するリスクがあります。
もし、ホテル等で開催する場合は懇親会は中止すべきと思います。
4.最後に
一般社団法人、公益社団法人は社団であるため、社員数が多数である場合が多いと思います。例えば、観光協会や同業者団体は地元の会社や個人が会員となることが多く、都市にもよりますが、会員数はかなり多くなります。
そのため、社団の場合は決議の省略による方法が取りにくいのが現状です。なぜかというと、決議の省略は、提案について社員の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の社員総会の決議があったものとみなすとされているため(一般法58条①)、例えば、社員数が2~3名であれば可能ですが、社員数が100名以上であるとか、あるいは何百名もいるとかといった場合は、全員の同意を取り付けることが実務上、極めて困難となるためです。
そのため、実際に社員総会を開催する必要がありますが、今般の新型コロナウイルス感染症は生命の危険が関わるため、命を守る行動が必要です。
今回の記載が参考となりましたら幸いです。
追伸
公益法人の行政庁とは管轄省庁は異なりますが、人間の命がかかっているわけですから、今回、経済産業省と法務省が出したQ&Aに掲げられた方策を準用しても、理解はしていただけるのではないかと思います(私見です)。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。