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評議員会の決議の省略に係る留意点~一般財団法人・公益財団法人、社会福祉法人

公認会計士・税理士  森 智幸

1.はじめに

 新型コロナウイルス感染症拡大の影響が長引いているため、3月決算の一般財団法人及び公益財団法人の評議員会、社会福祉法人の評議員会の開催もどのようにすればよいか悩んでおられる法人が多くなってきていると思います。

 個人的には、新型コロナウイルスは感染力が非常に強いため、感染リスクを考えると、評議員会については決議の省略による方法がベストだと思います。なぜかというと、決議の省略によれば、評議員が実際に集まらなくてもよいからです。もちろん、電話会議、テレビ会議、Web会議による方法で実際に評議員会を開催できれば、よりベストですが、私が知る限り、現状ではこれらの方式に対応できる法人は多くないという印象です。

 そこで、今回は、評議員会の決議の省略についてその概要と留意点について記載しました。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.評議員会の決議の省略の概要

(1)概要

提案書と同意書を配達するヤギの郵便屋さん

 評議員会の決議の省略とは、理事が評議員会の目的である事項について提案をした場合において、当該提案につき評議員(当該事項について議決に加わることができるものに限る。)の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の評議員会の決議があったものとみなすとするものです(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」194条①、社会福祉法(以下「社福法」)45条の9⑩)。

 

 社会福祉法人も社福法45条の9⑩により、一般法194条を準用しますので、法令上は同じ内容となります。

  

 この決議の省略は、簡単に言いますと、評議員が実際に集まらなくても、書面等で全員が同意すれば、提案した議題・議案は決議があったものとみなす、すなわち、書面等でOKということです。

 今般の新型コロナウイルス感染症の拡大を鑑みると、実際に集まらなくてもよいというのが大きなポイントです。

 もちろん、決議の省略は、定時評議員会、臨時評議員会問わず行うことができます。

(2)決議事項の制限の有無

 この決議の省略による方法によった場合においても、法令上、決議事項には制約はありません。

 従って、計算書類の承認、定款の変更、理事や監事の選任も決議の省略による方法で行うことは可能です。

 

 ただし、確かに、法令上は問題はありませんが、ガバナンスの観点からみると、計算書類の承認といった重要事項は、本来は評議員会の場で各評議員が質問したり議論をしたりして、いろいろと検討した上で承認するという形が望まれます。

 そのため、決議の省略による場合は、誰もが賛成する軽微な事項を決議の対象にすべきと考えられます。

 参考ですが、京都市は平成29年5月に公表した「社会福祉法人制度改革後の法人運営について」で、この評議員会の決議の省略について「評議員会における討議や理事からの説明を省略しても差し支えないような軽微な事項について行うことが適当です。」としています。

 

 しかしながら、今般の新型コロナウイルス感染症は感染リスクが非常に高く、生命の危険もあるため、極力、人と人の接触は避けるべきです。

 従って、今年の場合は、計算書類の承認を決議の省略による方法によってもさしつかえないと考えられますし、法令上も問題はありません。

(3)理事会の決議の省略との相違点

 一応、理事会の決議の省略との相違点を簡単に記載いたします。

 公益法人Information内のFAQ「問Ⅱ‐7‐①(決議の省略) 社員総会の決議の省略は、理事会や評議員会における決議の省略とどのように違うのですか。 」もあわせて御覧ください。

(イ)定款の定めは不要

 理事会の決議の省略では、その旨を定款で定めておく必要がありますが(一般法96条)、評議員会の決議の省略の場合は定款での定めは不要です(一般法194①)。従って、定款の内容は気にしないで行うことができます。

(ロ)監事の確認は不要

 理事会の決議の省略では、監事が異議を述べないことが必要ですが(一般法96条)、評議員会の決議の省略の場合は監事が異議を述べないことは不要です(一般法194①)。

3.留意点

(1)理事会で招集の決定が必要

 評議員会を決議の省略によって行う場合も、理事会で招集の決定を行うことが必要です(一般法181条①)。

 私が知っている範囲では、評議員会を決議の省略で行う時に、この理事会での招集の決定を行わずに、いきなり評議員会の決議の省略の手続きを行っている法人がよく見られました。どちらかというと、一般及び公益財団法人のほうにこのミスが多く見られる印象です。社会福祉法人の場合は、これも私が知っている範囲でありますが、評議員会について決議の省略を行うことは少なく、実際に集まってリアルに行う法人が多いという印象です。

 

 この招集の決定では評議員会の日時及び場所を定める必要がありますが(一般法181①ⅰ)、決議の省略の場合は書面で行われることから日時及び場所を定めることはできないため、例えば、「決議の省略による方法による」と定めておけばよいと思います。

 

 なお、理事会ですが、こちらも実際に集まって開催することは必ずしも必要ではなく、決議の省略による方法でも行うことができます。

 今般の新型コロナウイルス感染症の拡大を鑑みると、理事会も決議の省略によって行うほうがよいのではないかと思います。

(2)議事録の作成

 評議員会を決議の省略による方法によっても、評議員会でありますから、評議員会の議事録を作成する必要があります(一般法193条①)。

 この議事録の作成も失念されている法人が見られますのでご注意ください。

 

 評議員会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならないとされていますが(一般法193条①)、決議の省略による場合は以下の事項を内容とすることになります(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則60条④ⅰ)。

 

イ 評議員会の決議があったものとみなされた事項の内容

ロ イの事項の提案をした者の氏名

ハ 評議員会の決議があったものとみなされた日

ニ 議事録の作成に係る職務を行った者の氏名

(3)その他

 決議の省略を行った場合、評議員会の決議があったものとみなされた日から10年間、同項の書面又は電磁的記録をその主たる事務所に備え置かなければなりません(一般法194条②)。

4.提案書、同意書、議事録の雛形

 評議員会の決議の省略を行う場合に作成する書類は①提案書と②同意書があります。また、③議事録の作成も必要です。

 ここでは、社会福祉法人用ですが、所轄庁が公表している雛形をご紹介します。

 公益法人については、公益法人Information内に雛形がないので、初めて行われる場合は、上記の社会福祉法人用のものをアレンジするとよいのではないかと思います。

 なお、議事録については公益財団法人公益法人協会様が議事録をHPで公開されていますので参考になるかと思います。

 

 以上、参考としていただけますと幸いです。

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

 令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

 PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

 上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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