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監事監査が予定時期に実施できない場合の対応策

公認会計士・税理士 森 智幸

1.はじめに

 4月になっても新型コロナウイルス感染症の拡大が止まりません。

 この状況下では、3月決算の一般社団法人、公益社団法人、一般財団法人、公益財団法人、そして社会福祉法人の監事監査の実施にも影響する可能性が出てきました。

 そこで、今回は予定していた時期に監事監査を実施できない場合の対応策の案について記載してみたいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.監事監査ができなかった場合

(1)理事会承認との関係

 一般社団法人、公益社団法人、一般財団法人、公益財団法人については、計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、監事の監査を受けなければならないとされています(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)124条①、199条)。なお一般社団法人については監事設置法人が対象となります。

 また、社会福祉法人においても同様です(社会福祉法45条の28①)。

(なお、会計監査人設置の場合は一般法124条②、社福法45条の28②)

 

 そして、監査を受けた計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書は、理事会の承認を受けなければなりません(一般法124条③、社福法45条の28①)。

 そのため、理事会の承認を受けるには、その前に監事監査が終了して、監査報告を受けていなければなりません。

 

 従って、新型コロナウイルス感染症の影響により、外出自粛や施設への外部者立入禁止により監事が監査を行うことができなかった場合や、あるいは監事が新型コロナウイルスに罹患してしまい監査を行うことができなかった場合は、監事監査が終了していませんので、計算書類等については理事会での承認を得ることができません。

 理事会の承認を得ることができなければ、定時社員総会、定時評議員会での承認もできませんから、決算は終わらないことになります(なお、会計監査人を設置している法人は一定の要件を満たした場合は報告)。

(2)行政庁、所轄庁への提出書類への影響

 計算書類等が社員総会や評議員会で承認を得られないと、数値等が確定しませんので行政庁や所轄庁への提出書類も提出ないし届け出ができないことになります。

 以下、法人の種類別に提出書類と提出期限をまとめてみます。

 

(イ)一般社団法人及び一般社団法人(移行法人の場合) 

 移行法人は、毎事業年度の経過後3箇月以内に、計算書類等及び公益目的支出計画実施報告書を認可行政庁に提出しなければなりません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律127条③)。

 

(ロ)公益社団法人及び公益財団法人

 公益法人は、毎事業年度の経過後3箇月以内に、財産目録等(定款を除く。)を行政庁に提出しなければなりません(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律22条①)。

 財産目録等は、いわゆる事業報告等に係る提出書類を指します。もちろん計算書類等を含みます。

 

(ハ)社会福祉法人

 社会福祉法人は、毎会計年度終了後3月以内に、計算書類等、財産目録等を所轄庁に届け出なければなりません(社福法59条)。

 

 なお、これらの法人は、定時社員総会や定時評議員会の開催時期につき、法令で決算日後3箇月以内に開催しなければならない旨は記載されていませんが、これらの書類を提出ないし届け出の期限が法令で定められていることから、決算日後3箇月以内の開催が必要となります。

3.内閣府、厚生労働省の見解

 このような状況の中、内閣府や厚生労働省は以下の見解を公表しています。

(1)内閣府

 公益法人について、内閣府は公益法人Information内で「新型コロナウィルス感染症の拡大に伴う公益法人の運営に関するお知らせ」を公表しています。

 その中では、 「Ⅰ 社員総会・評議員会・理事会の開催」として

「今般の新型コロナウイルス感染症に伴う影響のように、やむをえない事由により、当初予定していた時期に開催できない場合、その状況が解消された後合理的な期間内に開催していただければ、行政庁としては、その状況を斟酌して対応いたします。」

としています。

 

 また、「Ⅱ 行政庁への書類の提出」として

「今般の新型コロナウイルス感染症に伴う影響のように、やむをえない事由により、事業計画書、収支予算書、財産目録、計算書類、事業報告などの書類の行政庁への提出が遅れる場合は、行政庁としては、その状況を斟酌して対応いたします。」

としています。

(2)厚生労働省

 社会福祉法人についても厚生労働省が令和2年3月9日に続いて、令和2年4月14日付で所轄庁宛の事務連絡「新型コロナウィルス感染症の発生に伴う社会福祉法人の運営に関する取扱いについて(その2)」を公表しています。

 

 その中では「1 社会福祉法人が作成しなければならない書類の取扱いについて」として

 

 「社会福祉法(昭和 26 年法律第 45 号。以下「法」という。)上、社会福祉法人に対しては、次の書類の作成、届出等が義務付けられている。これらの書類の取扱いについては、原則として法令の規定に従い運用するものであるが、新型コロナウィルス感染症の全国的かつ急速なまん延の抑制を図る観点から、職員の出勤抑制等により、現にやむを得ずこれらの作業に支障が生じている場合には、当該支障がなくなり次第、できる限り速やかに履行すること。また、所轄庁においては、指導監査や、届出等の時期の取扱いについて柔軟に対応することとされたいこと。」

 

 としています。

(3)7月以後の開催は可能?

 これらに基づくと、6月に決算承認理事会、定時社員総会ないし定時評議員会を開催する予定だった法人が、新型コロナウイルス感染症の影響により監事監査を実施できなかったことにより、予定していた時期に理事会等を開催できなかった場合、7月以後に監事監査を実施して、決算承認理事会や定時社員総会・定時評議員会を開催することも、今回に限っては可能と解されます。

4.7月以後に開催した場合の実務上の問題点

 このように、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は緊急事態であるため、法令の規定に関わらず例外的な措置がとられることになります。

 そのため、定時社員総会や定時評議員会を7月以後に開催することも、今回に限っては可能と解されますが、実務上、例えば以下の事例が出てくると予想されます。

  • 令和2年度から新理事や新監事を選任する予定だったのに、定時社員総会ないし定時評議員会が6月に開催できないと、いつまでたっても選任できない。
  • 今回で理事または監事を退任する予定だったので早く辞めたい。

5.金融庁による企業決算・監査及び株主総会の対応案

 このような中、株式会社に関することですが、金融庁は令和2年4月15日付で「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた企業決算・監査及び株主総会の対応について」を公表しました。

 今回、新型コロナウイルス感染症の影響で企業決算や監査に影響が出ており、決算や監査が遅延するところが多くなってきています。この場合、定時株主総会を予定していた時期よりも後の時期に開催することは可能ですが、計算書類の承認以外の決議事項も後回しになってしまうことから、金融庁は例として継続会で対応することを記載しています。以下、引用します。

 

 「資金調達や経営判断を適時に行うために当初予定した時期に定時株主総会を開催する場合には、例えば、以下のような手続をとることも考えられること。 

  1. 当初予定した時期に定時株主総会を開催し、続行(会社法317条)の決議を求める。当初の株主総会においては、取締役の選任等を決議するとともに、計算書類、監査報告等については、継続会において提供する旨の説明を行う。
  2. 企業及び監査法人においては、上記のとおり、安全確保に対する十分な配慮を行ったうえで決算業務、監査業務を遂行し、これらの業務が完了した後直ちに計算書類、監査報告等を株主に提供して株主による検討の機会を確保するとともに、当初の株主総会の後合理的な期間内に継続会を開催する。
  3. 継続会において、計算書類、監査報告等について十分な説明を尽くす。継続会の開催に際しても、必要に応じて開催通知を発送するなどして、株主に十分な周知を図る。」(赤字は筆者)

 

 このように、金融庁は続行に基づく継続会で対応するという案を出しています。

6.対策案~継続会の適用

 この続行については一般法、社福法においても同様の規定が定められています(一般法56条、192条、社福法45条の9⑩)。

 金融庁の案は株式会社に係るものですが、これを参考にすることもできるのではないかと思います。

 

 そこで、予定していた時期に監事監査ができなかった場合の対策案を記載してみたいと思います。

 

対策案(あくまで私案です)

【6月】

  • 理事会を開催し、決算以外の事項について決議を行う。
  • 当初予定した時期に定時社員総会、定時評議員会を開催し、続行の決議(一般法56条、192条、社福法45条の9⑩)を求める。
  • 定時社員総会、定時評議員会では理事や監事の選任決議などを行い、計算書類の承認(会計監査人設置法人は一定の要件を満たした場合は報告)は継続会において行う旨の説明を行う

 【7月~8月】(新型コロナウイルス感染症の影響が小さくなった時期とします) 

  • 決算終了後、監事監査を行う。
  • 理事は監事から監査報告を受ける。

【9月】

  • 理事会を開催し、計算書類等の承認を行う。
  • 継続会による社員総会、評議員会で計算書類の承認を行う(会計監査人設置法人は一定の要件を満たした場合は報告)。
  • 公益法人は定期提出書類を作成し、提出する。
  • 社会福祉法人は現状報告書などを作成し、届け出る

7.重要なことは品質の確保

 このように、今年は予定していた時期に監事監査が実施できない可能性があるので、私案を記載してみました。

 

 重要なことは、監事監査を形だけで終わらせて決算承認に進むのではなく、監事は品質をしっかりと保った監査を行うことが必要であるということです。

 なお、公益法人の立入検査に関して申し上げますと、京都府の場合は、監事が監査を行わずに監査報告書に署名押印するだけという事例が見られるということで、本当に監査を行ったのかどうかをチェックするという方針となっています。

 そのため、例えば、どのような監査手続を行ったのかを記載した書面や指摘事項一覧表などを記載した監事監査レポートを作成して、監査を行った証跡を残す必要があります。

 このあたりは以前、「監事監査のあり方~公益法人・社会福祉法人共通」にも記載しましたので、ご参照ください。

 

 また、監事が1名という法人もよくみられますが、監事が1名だと、もし新型コロナウイルスに罹患すると長期間に渡って監査ができなくなってしまいます。

 そこで、今後は監事は2名以上選任して、今回のような新型コロナウイルスのような危険度の高いウイルスに感染しても、他の監事がカバーできるようにする体制にしておくことも有効かと思います。

 

 以上、私見ではありますが、参考としていただけますと幸いです。