公認会計士・税理士 森 智幸
1.はじめに
新型コロナウイルス感染症の拡大防止のため、4月に全都道府県に緊急事態宣言が発令されました。また、その前には海外からの入国制限も行われました。その結果、人々の動きが止まり、経済活動は停滞することになりました。これは新型コロナウイルス感染症の拡大防止のためにはやむを得ないことですが、その結果、資金繰りが苦しくなっている中小企業も増えてきています。
今回は、資金繰りを悪化させないために、いま一度、収益と収入の違いを説明したいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.収益と収入の違い
(1)収益とは
以前に旧ブログでも説明しましたが、会計上「収益」と「収入」は異なります。
この点は、会社経営を行われる方や経理担当の方は十分把握されておく必要があります。
というのは、このあたりが感覚的だと、資金繰りの状況を見誤る可能性があるためです。
右図は、掛売上を例にしたものです。
商品を100で掛で販売したとします。
この場合は、仕訳は以下のようになります。
(借方)売掛金 100 (貸方)売上 100
このとき貸方に計上される売上は「収益」です。
現行会計は、発生主義会計に基づいて会計処理を行いますので、現金収入がある前に、帳簿上は販売の事実に基づいて売上を計上します。
(2)収入とは
その後、売掛金を80回収できたとします。
この場合の仕訳は以下のようになります。
(借方)現金預金 80 (貸方)売掛金 80
このとき借方に計上される現金預金80は「収入」です。ここで初めて現金収入が出てきました。
このように、発生主義会計では、掛売上を行った場合、売上の計上のタイミングと、現金収入のタイミングがずれてきます。
そのため、発生主義会計による試算表のみでは、利益と資金繰りの関係がわかりにくくなってしまいます。どういうことかというと、発生主義会計における利益は必ずしも現金収入の裏付けがあるわけではないためです。従って、気がつかないうちに資金繰りが悪化している可能性もありうるというわけです。
利益が出ているにも関わらず資金繰りが悪化して倒産する「黒字倒産」というケースがありますが、これはこのような理由によるものです。
(3)収益・未収入項目とは
売掛金100のうち80が回収できましたので、残額は20となりました。
この20が貸借対照表に売掛金20として出てきます。
売掛金は「収益・未収入項目」と呼ばれます。これは売掛金は「収益」を裏付ける科目であるものの、「収入」がないものだからです。
売掛金が増加すると、流動資産が増加するのでなんとなくよさそうな感じがしてしまいますが、売上があまり変わらないのに、売掛金が増加するということは、未収入項目が増加しているということですから、資金繰りとしては好ましくないということになります。
間接法によるキャッシュ・フロー計算書では、営業活動によるキャッシュ・フローの計算において売掛金の増減額を記載する欄がありますが、売掛金が増加した場合はマイナス、減少した場合はプラスとしているのはこのような理由によるものです。
上記の例で見てみると以下のようになります。なお、あまりにも極端ですが、説明をわかりやすくするために商品の原価は0円ということにします。
利益は売上のみなので100です。
従って、
当期純利益 100
売掛金の増減額 △20
営業キャッシュ・フロー 80
売掛金は期首残高は0でしたが、期末に20となっています。
収入額を算出するためには、収益は100であったものの、そのうち20が未回収であり収入となっていないので、収益未収入項目の売掛金の増加額20はマイナスするということになります。
3.自社のキャッシュ・フロー構造の分析
近年は、キャッシュレス決済が増えてきているため、これまで現金収入が多かった飲食店などでも売掛金が発生するようになってきました。
そのため、利益、収入の関係を感覚ではなく数値でしっかりと把握する必要があります。そのようにしないと資金繰りの悪化につながる恐れがあるためです。
キャッシュレス決済は今後、より増加していくと予想されます。
従来より、キャッシュレスは国が普及に力を入れていますし、新型コロナウイルス感染症対策として、厚生労働省は「新型コロナウイルスを想定した「新しい生活様式」」を公表しています。その中で、買い物では「電子決済」が推奨されています。
いわば、小売業においてキャッシュレス導入が進むのは必然的ともいえます。
このような中、資金繰りを管理するためには、毎月、キャッシュ・フロー計算書を作成することです。
多くの小売業(飲食店を含む)は、税金計算においては青色申告で行っていると思います。ということは複式簿記を導入しているはずですから、毎月試算表を作成することは可能です。
キャッシュ・フロー計算書を作成すれば、「営業活動によるキャッシュ・フロー」、「投資活動によるキャッシュ・フロー」、「財務活動によるキャッシュ・フロー」の3区分においてそれぞれのキャッシュ・フローの状況がわかりますので、自社がどの活動からキャッシュ・フローを生み出しているのかを把握することができます。
間接法によるキャッシュ・フロー計算書であれば、試算表の科目と残高に基づいて作成することができますので、顧問の税理士事務所に作成していただくとよいでしょう。