公認会計士・税理士 森 智幸
1.はじめに
収束に向かっていた新型コロナウイルス感染症ですが、ここに来て再度、感染が拡大してきました(7月5日時点)。私が住んでいる京都市内でもクラスターが発生した模様です。
新型コロナウイルスは感染力が非常に強いので、今後もどこで第2波、第3波が来るのかが全く予測できません。
このような中、企業会計基準委員会、金融庁、日本公認会計士協会は、4月以後、3月決算の会社を前提に、期末決算時における会計上の見積りに係る新型コロナウイルス感染症の影響に関する考え方を示してきました。
さらに、6月下旬から7月上旬にかけては、3月決算の会社を前提とした四半期報告書における会計上の見積りや開示についての考え方も示されました。
今回はこの四半期報告書に関する開示や考え方について記載された企業会計基準委員会、金融庁、日本公認会計士協会の文書内容について整理したいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.ASBJ、金融庁、JICPAによる指針を整理すると
(1)三者の考えの関係
会計上の見積りに関する指針は、企業会計基準委員会(ASBJ)、金融庁、日本公認会計士協会(JICPA)のそれぞれから、ほぼ同じ時期に公表されているので、どれに何が書いてあるのかよくわからないという方もいらっしゃるかと思います。
そこで、まず、企業会計基準委員会、金融庁、日本公認会計士協会それぞれの指針について整理してみたいと思います。
令和2年度の第一四半期決算を前にした指針については、時系列に見ると、以下の文書がそれぞれ公表されています。(年はいずれも令和2年または2020年)
- 企業会計基準委員会 「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方 」( 6月26日更新)
- 日本公認会計士協会 「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その6)」(6月30日公表)
- 金融庁 「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について 」(7月1日発出)
1週間の間に、3つの文書が出てきたので、混乱してしまうかもしれませんが、読んでみると、三者がそれぞれ独自の考えを述べているというわけではなく、金融庁、日本公認会計士協会は、最初に公表された企業会計基準委員会の考えをベースにして述べている部分が多くなっています。そのため、大雑把ではありますが整理してみると、企業会計基準委員会の考え方に基づいた記載部分とそれ以外の部分に区分すれば読みやすくなるのではないかと思います。
そこで、簡単に、企業会計基準委員会の考えと、日本公認会計士協会及び金融庁の考えの関係(文書の構成)を示してみます。
(2)日本公認会計士協会の文書
日本公認会計士協会の「新型コロナウイルス感染症に関連する監査上の留意事項(その6)」は、以下の4つの論点について記載されています。
これらと企業会計基準委員会の記載との関係は以下のとおりです。
- 「1.固定資産の減損の兆候の識別(四半期における簡便な取扱い)に関する四半期適用指針の適用に関する四半期レビューの留意事項について」 →日本公認会計士協会の見解。ただし、既存の会計基準等の確認レベルの内容。
- 「2.繰延税金資産の回収可能性の判断(四半期における簡便な取扱い)に関する四半期適用指針の適用に関する四半期レビューの留意事項について」 →日本公認会計士協会の見解。ただし、既存の会計基準等の確認レベルの内容。
- 「3.当年度の四半期報告書における追加的な開示(見積り)について」 →企業会計基準委員会の考えを記載したもの。
- 「4.四半期レビューにおける継続企業の前提についての留意事項 」 →日本公認会計士協会の見解。ただし、既存の会計基準等の確認レベルの内容
従って、日本公認会計士協会の文書については、「3.当年度の四半期報告書における追加的な開示(見積り)について」が企業会計基準委員会の考えを記載したものなので、それ以外の論点に目を通せばよいと思います。
ただし、上記の通り、1,2及び4は既存の会計基準等(適用指針や実務指針など)の内容を確認するような内容です。
(3)金融庁の文書
金融庁の 「四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示について 」は、「2.四半期報告書における新型コロナウイルス感染症の影響に関する企業情報の開示」の「(2)財務情報(追加情報)の開示」と「(3)非財務情報(記述情報)の開示」に主な内容が記載されていますが、これらと企業会計基準委員会の記載との関係は以下のとおりです。
- 「(2)財務情報(追加情報)の開示」→企業会計基準委員会の考えを記載したもの。
- 「(3)非財務情報(記述情報)の開示」→四半期報告書の記載方法について述べたもの。こちらは金融庁の見解。ただし、必ずしも新しい見解を示したものではなく、既存の規定の確認といったレベル
従って、金融庁の文書については「(3)非財務情報(記述情報)の開示」だけを読めば概ね問題はないといえるのではないでしょうか。
なお、下記にも記載していますが、追加情報や非財務情報の開示については有価証券報告書レビューの一環として、必要に応じて確認するということなので、注意が必要です。
3.四半期開示における留意点
最後に、企業会計基準委員会の考えですが、こちらは追加情報の記載方法について述べられたものです(「会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方 」)。
全く新しい考えが示されたというわけではありませんが、今回の新型コロナウイルス感染症が発生している中で設定した会計上の見積りに係る仮定と追加情報の記載方法について詳細に記載されており、重要性が高いものとなっています。
金融庁も、この追加情報については「四半期報告書の財務情報(追加情報)及び非財務情報における当該開示についても、有価証券報告書レビューの一環として、必要に応じて確認します」としており、注意が必要です。
以下に、四半期財務諸表における会計上の見積りに係る仮定と追加情報の記載について、当該文書の文章を掲載します(赤字は筆者)。
(1)前年度の財務諸表において第 429 回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行ったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該変更の内容を記載する必要があるものと考えられる。
(2)前年度の財務諸表において仮定を開示していないが、四半期決算において重要性が増し新たに仮定を開示すべき状況になったときは、他の注記に含めて記載している場合を除き、四半期財務諸表に係る追加情報として、当該仮定を記載する必要があるものと考えられる。
(3)前年度の財務諸表において第 429 回企業会計基準委員会の議事概要の(4)に関する追加情報の開示を行っている場合で、四半期決算において新型コロナウイルス感染症の今後の広がり方や収束時期等を含む仮定に重要な変更を行っていないときも、重要な変更を行っていないことが財務諸表の利用者にとって有用な情報となると判断される場合は、四半期財務諸表に係る追加情報として、重要な変更を行っていない旨を記載することが望ましい。
(1)(2)はそのとおりだと思いますが、(3)については、重要な変更を行っていないときも、一定の場合には追加情報として重要な変更を行っていない旨を記載することが「望ましい」とされており、やや特殊な感じがしました。
「望ましい」ということなので、絶対的なものではないですが、このような場合は記載しておくほうがよいかと思います。