1.はじめに
今回は、関東大手私鉄(東武、西武、京成、京王、小田急、東急、京急、相鉄、東京メトロ)とJR東日本について、新型コロナウイルス感染症に係る追記情報に記載されている、会計上の見積りにあたって設けた仮定を見てみたいと思います。
ほぼ、有価証券報告書の引用ですが、ご容赦ください。
2.各社の追加情報
(1)東武鉄道株式会社
「2 会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の考え方
当社グループにおける新型コロナウイルス感染症の影響については、収束時期や将来の経済への影響等を正確に予測することは困難な状況でありますが、2021年3月期においては、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出自粛要請等により、営業収益等の大幅な減少が発生するものの、今後2021年3月期の一定期間にかけて回復していくとの仮定を置き、株式及び固定資産の減損等における将来キャッシュ・フロー並びに繰延税金資産の回収可能性等の見積りを行っております。」(赤字は筆者)
東武は、当事業年度中(2021年3月まで)には営業収益等は回復すると予測されているようです。
(2)株式会社西武ホールディングス
「(重要な会計上の見積り)
新型コロナウイルス感染症の国内外での流行及び2020年4月7日に日本政府より発出された緊急事態宣言にともない、当社グループの鉄道業、バス業などにおいて外出自粛により利用客が減少しているほか、一部を除きホテルやゴルフ場、レジャー施設などにおいて臨時休業をおこないました。
当社グループにおいては、新型コロナウイルス感染症の影響が少なくとも2020年内までは続くと仮定し、繰延税金資産の回収可能性の判断や減損損失の判定をおこなうなど、一定の仮定のもと会計上の見積りを会計処理に反映しております。しかしながら、新型コロナウイルス感染症による影響は不確定要素が多く、翌連結会計年度の当社グループの財政状態、経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。」(赤字は筆者)
西武は、新型コロナの影響が少なくとも2020年内までは続くと予測されているようです。
(3)京成電鉄株式会社
「(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響)
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、主に運輸業(鉄道・バス事業)において、成田空港関連輸送の需要減等により、当連結会計年度の業績に影響を与えております。
翌連結会計年度以降の業績に与える影響については、収束時期等を予想することが困難なことから、2020年度中は当該影響が継続するものの、2021年度には感染拡大前の状況に戻ると仮定しており、固定資産の減損及び繰延税金資産の回収可能性等の判断にあたっては、当該仮定による会計上の見積りを行っております。
なお、当該仮定は不確実性が高く、新型コロナウイルス感染症の影響が長期化した場合は、翌連結会計年度以降の連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。」(赤字は筆者)
京成は、2020年度中は影響が続くものの、2021年度には回復すると予測されているようです。
(4)京王電鉄株式会社
「(追加情報)
新型コロナウイルスの感染拡大により、訪日外国人旅行客の急激な減少や外出自粛による国内個人消費の低迷など、当社グループの事業活動においても大きな影響を受けております。当連結会計年度においては、新型コロナウイルスの感染拡大の影響が翌連結会計年度(2021年3月期)の一定期間にわたり継続するものの、収束に向けて段階的に回復することを想定し、固定資産の減損会計における将来キャッシュ・フローや繰延税金資産の回収可能性等の会計上の見積りを行っております。」(赤字は筆者)
京王は、2021年3月までの期間に影響は継続するものの、回復に向かうと予測されているようです。
(5)小田急電鉄株式会社
「(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響)
新型コロナウイルス感染症の広がりは、当社グループの事業活動に影響を及ぼしています。今後の広がり方や収束時期等を予測することは困難なため、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローの予測を行うことは極めて困難です。
このため、繰延税金資産の回収可能性や減損損失の判定等については、連結財務諸表作成時に入手可能な情報に基づき、2020年9月まで当該影響が継続し、10月以降徐々に回復するとの一定の仮定を置いて最善の見積りを行っています。」(赤字は筆者)
小田急は、2020年10月以降徐々に回復すると予測されているようです。
(6)東急株式会社
「(会計上の見積りを行う上での新型コロナウイルス感染症の影響の考え方)
新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等を正確に予測することは困難な状況にありますが、外部の情報源に基づく情報等を踏まえ、2021年3月期においては、2020年6月まで政府から発令された緊急事態宣言や、自治体からの外出自粛要請等により厳しい制約の下で営業収益等の大幅な減少が発生するものの、同年7月以降、2021年3月期の一定期間にかけて当該状況が正常化していくとの仮定を置き、固定資産の減損会計における将来キャッシュ・フローや繰延税金資産の回収可能性等の会計上の見積りを行っております。」(赤字は筆者)
東急は、2021年3月までには正常化していくと予測されているようです。
(7)京浜急行電鉄株式会社
「(追加情報)
新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、鉄道事業やバス事業における旅客輸送人員の減少、レジャー・サービス事業におけるビジネスホテルの稼働率低下、流通事業における施設の休業および時間短縮による収入の減少など、当社グループ全体の業績に大きな影響を与えております。今後の影響や収束時期などを予測することは困難であり、会計上の見積りを行う上で、特に将来キャッシュ・フローについて客観性のある情報に基づき予測を行うことは困難であります。
このため、繰延税金資産の回収可能性や減損損失の判定などについては、翌連結会計年度にわたり影響が生じるとの一定の仮定のもと、最善の見積りを会計処理に反映しております。」(赤字は筆者)
京急は、翌連結会計年度にわたり、とされているので、2021年3月期の年度までは影響が続くと予測されているようです。
(8)相鉄ホールディングス株式会社
「(新型コロナウイルス感染症の影響に関する会計上の見積りについて)
新型コロナウイルス感染症の拡大は、運輸業、ホテル業を中心に、当社グループの業績に大きな影響を与えております。新型コロナウイルス感染症の影響については、今後の広がり方や収束時期等について統一的な見解がなく、今後の経済活動正常化のタイミング及び当社グループにおける業績への影響を見通すことは極めて困難であります。当社では連結財務諸表の作成にあたり、外部の情報源に基づく情報等を踏まえ、新型コロナウイルス感染症が2020年度の上期中に収束し、業績は下期から回復に向かい、2021年度には例年並の需要が見込まれることを仮定し、会計上の見積りを行っております。このため主要な仮定については最善の見積りを前提にしておりますが、今後の新型コロナウイルス感染症及び経済動向によって、事後的な結果と乖離が生じる可能性があります。」(赤字は筆者)
相鉄は、2020年度下期、つまり10月以降回復に向かい、2021年3月以後は正常化すると予測されているようです。
(9)東京メトロ
記載はありませんでした。
(10)JR東日本
「(新型コロナウイルス感染症の影響)
新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、外出自粛に伴う鉄道輸送量の減や、駅構内店舗や駅ビル等の売上減などにより、当連結会計年度の営業収益が減少しております。
また、2020年4月から5月における「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言により、鉄道輸送量がさらに減少したことや、駅構内店舗や駅ビル等で営業時間の短縮や休業を実施したことなどから、翌連結会計年度の業績に重要な影響が見込まれます。
なお、当連結会計年度の固定資産の減損会計等の会計上の見積りにおいては、一定期間にわたり減収等の影響が継続した後、翌連結会計年度内に需要が回復すると仮定しております。」(赤字は筆者)
JR東日本は、しばらく影響が継続するものの、翌連結会計年度内、すなわち2022年3月までには需要が回復すると予測されているようです。
3.まとめ
以上、関東と関西の大手私鉄とJRについて、追加情報に記載された会計上の見積りに係る仮定を見てきました。
多少強引ですが、各社がどのあたりから、新型コロナウイルス感染症の影響から需要が回復すると予測しているかをまとめてみました。
- 2020年7月以後一定期間にかけて回復→東急
- 2020年9月末ごろまでに回復→南海、京阪(国内需要)
- 2020年10月以後回復→小田急、相鉄
- 2020年12月までに回復→京阪(インバウンド需要)
- 2021年1月以後回復?→西武(少なくとも2020年内まで影響が続く)
- 2021年3月までに回復→東武、京王、JR東日本
- 2021年4月以後回復→京成、京急(2021年3月期の連結会計年度にわたり影響が生じる)
このように見ると、多くの鉄道会社が2021年3月までには、需要が回復すると予測されているようです。
一方、京成と京急は2020年度中(2020年4月から2021年3月まで)は、新型コロナウイルス感染症の影響が継続すると予測されているようです。
全体としてみると、遅くとも2022年3月までの間には需要が回復するであろうと予測されていると読み取れます。
新型コロナウイルス感染症の影響は予測が困難であり、どのようになるのかは全く不透明です。
しかしながら、現在、ワクチン開発が急速に進んでいるため、私個人も、遅くとも2021年夏のオリンピックまでには、需要は元の水準に回復するのでは、と予測(期待)しています。