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業務執行理事の選定に係る留意点~公益法人・社会福祉法人

公認会計士・税理士  森 智幸

1.はじめに

 今回は、一般社団法人、公益社団法人、一般財団法人、公益財団法人(以下「公益法人」)及び社会福祉法人で、業務の執行をすることができる理事について記載したいと思います。

 代表理事(公益法人の場合)や理事長(社会福祉法人)のみが業務の執行を行うような法人であれば、代表理事または理事長が理事会で選定されていれば問題はないですが、「専務理事」や「常務理事」の肩書を持つものの、理事会で業務執行理事の選定が行われていない法人も見受けられます。

 そこで、今回は業務執行理事の選定に関する留意点について記載してみたいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.業務を執行する理事とは

 公益法人及び社会福祉法人では、業務を執行する理事は以下のように定められています。

(1)公益法人の場合

  • 代表理事
  • 代表理事以外の理事であって、理事会の決議によって理事会設置一般社団法人の業務を執行する理事として選定されたもの

(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)91条①)

(2)社会福祉法人の場合

  • 理事長
  • 理事長以外の理事であつて、理事会の決議によつて社会福祉法人の業務を執行する理事として選定されたもの

(社会福祉法45条の16②)

 以上のように、公益法人、社会福祉法人ともにほぼ同じ条文となっています。

 公益法人の場合は代表理事、社会福祉法人の場合は理事長ですが、これ以外には、理事会決議によって選定された業務執行理事のみが法人の業務を執行することができます。すなわち、これら以外の理事は法人の業務を執行することはできないので注意が必要です。

 以下、ケース別に見てみたいと思います。

3.代表理事・理事長のみが業務執行を行う法人の場合

業務執行理事

 公益法人や社会福祉法人の中には、代表理事、理事長以外の理事はすべて非常勤という法人もあります。

 このような法人は、通常は代表理事、理事長のみが業務執行を行っています。この場合は、代表理事、理事長が理事会で適法に選定されていれば問題はありません(一般法90条③、社会福祉法45条の13③)。

4.「専務理事」、「常務理事」が業務執行を行う法人の場合

 問題は、「専務理事」、「常務理事」といった肩書がついた理事の場合です。

 以下、定款で法律上の名称との関係を明らかにしている場合と明らかにしていない場合に分けて説明してみます。

(1)定款で法律上の名称との関係を明らかにしている場合

 定款で「専務理事」、「常務理事」といった法律上の名称とは異なる名称を使用するときは、法律上の名称と定款で使用する名称がどのような関係にあるのかを定款で明らかにしておく必要があります。

 

 この点については、公益法人では、内閣府によるFAQⅠ-3-⑤の回答で次のように記載されています。

 

「定款で「専務理事」という名称を使用した場合ですが、定款で使っている「専務理事」という名称の人が、一般社団・財団法人法における「代表理事」に該当するのか否か、あるいは「業務を執行する理事」(注)に該当するのか否か、それとも「理事」に該当するのか否かを定款を読む人が分かるようにすべきです。」(赤字は筆者)

 

 次に、社会福祉法人では、厚生労働省による定款例の第15条で次のように記載されています。

 

「社会福祉法の名称とは異なる通称名や略称を定款に使用する場合(例えば、理事長を「会長」と表記するような場合)には、「法律上の名称」と定款で使用する名称がどのような関係にあるのかを、定款上、明確にする必要があること。

 

<例>理事長、業務執行理事の役職名を、会長、常務理事とする場合の例

2 理事のうち1名を、会長、○名を常務理事とする。

3 前項の会長をもって社会福祉法の理事長とし、常務理事をもって同法第45条の16第2項第2号の業務執行理事とする。

(赤字は筆者)

 

 このように、定款において「専務理事」や「常務理事」といった人が、業務執行理事に該当することを明確にしているかどうかを確認しておく必要があります。

①理事会で「専務」や「常務」を選定しているとき

 このように、定款で法律上の名称との関係を明らかにしていることを前提として、理事会で「専務理事」や「常務理事」を選定している場合は、問題はありません。

 この場合は、理事会で選定された「専務理事」や「常務理事」が、法律上の業務執行理事に該当することになります。

②理事会で「専務」や「常務」を選定していないとき

 定款で法律上の名称との関係を明らかにしているにもかかわらず、理事会で「専務理事」や「常務理事」を選定していない場合は、業務執行理事を選定していないことになります。

 この場合、「専務理事」や「常務理事」の肩書があっても、法律上は業務執行理事ではありませんから、法人の業務を行うことはできません。業務執行理事でない理事が、法人の業務執行を行うと法律違反になりますので、注意が必要です。

(2)定款で法律上の名称との関係を明らかにしていない場合

 次に、定款で「専務理事」、「常務理事」といった法律上の名称とは異なる名称を使用しているものの、法律上の名称と定款上の名称との関係が明らかになっていない、あるいは、定款では何ら「専務理事」、「常務理事」といった名称は使用していないという場合について記載します。

①理事会で「業務執行理事」を選定しているとき

 このような状態であっても、理事会で「業務執行理事の選定」という議題を設けて、業務執行理事を選定している場合は問題はありません。

 ここで選定された業務執行理事は、もちろん、法人の業務を行うことができます。

②理事会で「業務執行理事」を選定してないとき

 しかしながら、理事会で業務執行理事の選定を行っていない場合は、業務執行理事は存在しないということになります。

 この場合は、代表理事ないし理事長以外の理事は業務執行を行うことはできないので注意が必要です。