公認会計士・税理士 森 智幸
1.在宅勤務の広がり
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため、在宅勤務を取り入れている会社が非常に多くなっています。以前もこのブログで「オフィス規模を縮小したときに生じる会計上の論点」で富士通の例を紹介しました。
在宅勤務を行っている会社では、本社オフィスの縮小や通勤手当の廃止を決定する会社が増加しています。このようなオフィスの縮小や通勤手当の削減は固定費の削減につながることになり、会社の財務体質を強化することにつながります。
今回は固定費の削減を行うことのメリットを記載したいと思います。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.オフィス縮小や通勤手当廃止が固定費削減につながる理由
(1)固定費とは
まず、固定費について説明します。固定費について確立した定義はありませんが、ここでは固定費は操業度に関係なく発生する一定の費用としておきます。
つまり、会社の活動量に関係なく確実に発生する費用です。例えば、減価償却費、賃借料、保険料等が挙げられます。
(2)通勤が不要になると
在宅勤務が通常の状態となると、毎日のオフィスへの通勤が不要となります。
そうなると、オフィスに出勤する人が非常に少なくなります。ということは現状のスペースが余剰となるため、支払っている家賃が割に合わなくなりますし、そもそも出勤の必要性が低くなるためオフィスそのものの役割が低下します。そのため、大手企業を中心に本社オフィスの縮小が始まっています。
オフィスを縮小すると、例えば以下の固定費の削減が期待できます。
- 賃借料
- 減価償却費
- 火災保険料
- 水道光熱費(ここでは固定費に分類しておきます)
また、通勤手当の廃止も広がっていますが、通勤手当も毎月一定額が発生する固定費なので、こちらも固定費の削減に繋がります。
このような固定費は多くが直接的に収益を生み出さない費用です。そのため、収益獲得に必ずしも貢献しない固定費は削減する必要があります。
3.固定費削減のメリット~景気変動に対する耐性
次に、固定費削減のメリットを説明します。
なぜ、固定費を削減するほうがよいかというと、売上が減少したときに、営業利益の減少率が小さくなるからです。
このあたりは管理会計を学ばれた方はよくご存知だと思います。
左図は売上高、変動費、固定費、営業利益の関係を示した例です。
A社、B社はどちらも変動率を30%としています。(極端な例ですが、ご容赦ください。)
しかし、A社では固定費を400、B社では固定費を200としています。
つまりB社のほうが固定費が少ない企業となります。
これを前提として、T2年度はT1年度に比べて売上が200減少して800になったとします。
変動率は30%ですから、変動費は800✕30%=240です。そのため、売上高から変動費を引いた利益(貢献利益という呼び方をします)は両社とも560となります。
しかし、固定費は異なりますから営業利益はA社は160、B社は360となります。
次に減少額を見てみます。減少額はA社、B社ともに同じとなります。
しかし、減少率を見てみると、A社の営業利益の減少率は46.7%であるのに対して、B社は28%となっています。つまり、B社のほうが、営業利益の減少額はA社と同じであるものの、減少率は小さくなっています。
これは、B社のほうがA社よりも固定費が少ないことが原因です。
もう少し詳しく説明すると、限界利益に対して固定費の割合が小さいほうが、売上が減少したときも営業利益の減少率を低く抑えることができるということになります。
その指標として経営レバレッジ係数という指標があります。これは「限界利益÷営業利益」という計算式で算出します。この指標が数値が小さいほど、売上高が減少したときの営業利益の減少率を低く抑えることができることになります。
これは、限界利益に対して固定費の割合が小さいほうが営業利益が大きくなるので「限界利益÷営業利益」の分母の値が大きくなるためです。この例でいうとA社は2.3であるのに対してB社は1.4となっています。
このように、固定費を減少させれば、景気悪化時に売上が減少した場合でも、営業利益の減少率を低く抑えることができることになります。これは経営において、景気変動に対する耐性の強化につながります。
4.最後に
今回は、管理会計の観点からみてみましたが、もちろん、これ以外にも資金繰りの改善に役立つというメリットもあります。
一般的に、固定費の削減は短期的に行うことは難しく、長期的に行うものとされていますが、今回はコロナ禍のため在宅勤務が急速に普及したことにより、減価償却費、賃借料、通勤費といった金額が相対的に大きい固定費を短期的に削減することが可能となりました。
固定費を一気に削減できる機会はあまりありません。
今回を機に固定費を大きく削減できた企業とそうでない企業とでは、将来の景気変動の耐性に大きな差がついてきます。
従って、直ちに実行に移すのがよいと思います。