· 

ホンダがF1撤退~ガソリン車の販売禁止と環境対応

公認会計士・税理士 森 智幸

1.ホンダのF1撤退

 ホンダが2021年のシーズンを最後にフォーミュラ・ワン(F1)から撤退すると発表しました。

 ホンダのプレスリリースによると、

 

 「カーボンフリー技術の中心となる燃料電池車(FCV)・バッテリーEV(BEV)など、将来のパワーユニットやエネルギー領域での研究開発に経営資源を重点的に投入していく必要」があるとしています。これは持続可能な社会の実現のためとしています。

 

 そこで「F1で培ったエネルギーマネジメント技術や燃料技術、そして 研究開発の人材も同様に パワーユニット・エネルギー領域に投入し、将来のカーボンニュートラル実現に集中し取り組んでいくため」、F1参戦を終了するということです。

2.ホンダがF1に参戦してきた理由

 ホンダは今回を含めて過去4回、F1に参戦してきました。

 特に2回目の参戦のときは、圧倒的な強さでコンストラクターズチャンピオンに何度も輝きました。当時のホンダはウイリアムズやマクラーレンにエンジンを供給していました。特に、マクラーレン・ホンダは1988年には全16戦中15勝するという圧勝でした。この頃のマクラーレン・ホンダのドライバーはアイルトン・セナとアラン・プロストでした。日本でも空前のF1ブームが起こりました。

 

 ホンダがF1に参戦してきた背景には、技術シナジーの獲得という目的がありました。

 つまり、自動車レース最高峰のF1で勝利を目指すために開発した極めて高度な最先端のエンジン技術を、市販車のエンジン技術に活かすということです。

 

 ホンダの公式ページに「革新技術への挑戦 F1パワーユニットを知る」というページがありますが、これは2015年参戦時の目的、すなわち、F1マシンのために開発するエンジン技術と市販車へのフィードバックについて記載されています。

 このページによると、このときの目的は、F1のレギュレーションが改正され排気量の小規模化が行われたことを背景に、F1で勝つための高度な回生システムを開発し、その技術を市販車にも導入するということです。高度な回生システムを使えば、より少ないガソリン量で走ることができます。ガソリン量が少なければ、排気ガスの排出も抑えられます。そこで、F1で開発した技術を使えば、環境問題に対応する市販車の開発にもつなげられるということです。

3.ガソリン車の販売禁止

 しかしながら、近年、例えばフランスやイギリスでは、将来のガソリン車の販売禁止が発表されました。

 フランスは、2040年までにガソリン車とディーゼル車の販売を禁止するとしました。イギリスもガソリン車とディーゼル車の国内での新規販売禁止を、5年前倒しして2035年までに行うとしました。

 このように、ヨーロッパ諸国ではガソリン車やディーゼル車の販売禁止が広まっています。

 また、アメリカのカリフォルニア州でもニューサム知事が、2035年までにカリフォルニア州内で販売するすべての車についてガソリン車の販売を禁止すると発表しました。

 おそらく、ガソリン車・ディーゼル車の販売禁止、そして電気自動車などのエコカーの製造・販売促進はこのまま世界的な流れになりそうです。

 

 このような背景をみると、将来、ガソリン車自体の販売ができなくなる可能性が高くなるわけですから、ガソリンエンジンの技術向上を目指すよりも、電気自動車などの研究開発に資源を重点的に投入することのほうがベターになると思います。

 そうなると、ガソリンエンジンを使用するF1で、ガソリンエンジンの技術向上を目指すのは、今後の市場の流れに反するといえます。F1参入は、あくまで本業の市販車にF1技術を活かすという技術シナジーが目的ですから、F1参戦終了は必然の流れともいえると思います。 

4.地球温暖化問題

 このようなガソリン車の販売禁止の背景には、地球温暖化問題があります。ガソリン車が排出する排気ガスには二酸化炭素が含まれており、これが温暖化を促進するとされています。そのため、ガソリン車の販売禁止により二酸化炭素の放出を抑え、地球温暖化の防止に努めるということです。

 

 「地球に住めなくなる日」(NHK出版)という本によれば、地球は過去5回、大量絶滅が起きていて、そのうち4回は温室効果ガスによる気候変動が関わっていたということです。この本は地球温暖化が進んだ場合の、恐ろしいシナリオが原因とともに次々と書かれています。

 

 温暖化により北極、南極の氷が溶けて海面上昇が生じるという現象については、これまでにもよく言われてきましたが、頻発する山火事や巨大化するハリケーンや台風も温暖化が原因となっているそうです。さらには、温暖化は負の連鎖を生み出すそうで、例えば、熱波の発生により干ばつが進み飢餓が発生する、感染症が広がる、水不足が生じる、海水温が上がると海水の二酸化炭素吸収量が減って温暖化がさらに進む、といったことなどが記載されています。

 

 少し話がずれますが、昔は「将来、石油がなくなる。」と言われていました。そのため、石油の消費量を減らすため「省エネ」政策がとられましたが、現在を見てみると、石油が減っているどころか供給過剰になっている状態です。つまり将来予測は外れました。

 これを知っている世代からすると、地球温暖化といっても「またですか」という感覚になる人も多いと思います。しかしながら、近年の夏の猛暑を見てもわかる通り、気温上昇はかなり進んでいます。

 

 地球温暖化対策には、個々人の温暖化防止策ももちろん大事ですが、個人レベルでは、頑張ってもおそらく焼け石に水のような状況です。温暖化防止をドラスティックに進めるには、政策による防止策が有効だと思います。

 欧州でのガソリン車販売禁止も、本気で温暖化防止に努めることの表れであるといえます。2020年10月6日の日本経済新聞夕刊によると、英国やフランスではEVの他、プラグインハイブリッド車(PHV)を含む車種のシェアが1割を超えたということです。また、ノルウェーではEVシェアがすでに6割強になっているということです。

 

 将来、ガソリン車がなくなっていく可能性がかなり高くなってきた現在、ホンダがEVの研究開発にシフトするためにF1から撤退することは、残念ですが、やむを得ないと思います。