公認会計士・税理士 森 智幸
1.はじめに
ガバナンスの強化と持続的成⾧・企業価値の向上には、一見すると繋がりがないように見えるかもしれません。
しかし、ガバナンスがしっかりしている会社は、外部環境の変化に対応でき、イノベーションに挑戦できるという傾向があります。そのため、収益性が高くなることから、持続的に成⾧でき、企業価値の向上につながるというわけです。
ここでは、ガバナンスの強化と持続的成⾧・企業価値の向上について、上場企業のケースを紹介します。
なお、本ブログは私見であることにご留意ください。
2.環境変化への対応とイノベーションへのチャレンジ
「『経営監査へのアプローチ』(PwCあらた有限責任監査法人編:清文社)」P236~237によると、実効性が高いガバナンスを実現できている企業は、外部環境の急速な変化に迅速に対応できるとされています。さらに、多様な考え方やアイデアを受け止めてイノベーションに挑戦できるということです。
そのため、中長期的に持続可能であり、ガバナンスが弱い企業よりも企業価値を高く評価できるということです。
これが、ガバナンスの強化が持続的な成長と企業価値向上につながるロジックですが、さらに私なりに、その根拠を考えてみました。
3.意思決定とイノベーション
まず、外部環境の急速な変化への迅速な対応ですが、ガバナンスがしっかりしている企業は、適切な機関運営ができています。例えば、取締役会は自らの役割と責任を果たしており、監査役等による監査やモニタリングが機能しています。
このような企業では、意思決定の合理性が担保されているため、適切なリスクテイクをとることができます。
また、このあとにも出てきますが、取締役会のダイバーシティ(多様性)が進んでいる企業では、多様な人材がいることから環境の変化に関する情報が入りやすく、リスクの想定も早く行うことができます。
外部環境の急速な変化に対しての対応策は、これまで行ったことのない未知の対応になるためリスクがあることが多いですが、ガバナンスがしっかりしている企業は、合理的な意思決定に基づいて、適切なリスクテイクを取ることができることから、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定が可能となるというわけです。
次に、多様な考え方やアイデアの受け止めですが、ガバナンスがしっかりしている企業では、取締役会のダイバーシティ(Diversity)が進んでいます。
すなわち、取締役会は性別、年齢、国籍、キャリアなどの面で多様な人材で構成されているため、異なる考え方やアイデアに抵抗感を持つことなく議論や評価を行うことができます。
従って、新たなイノベーションにチャレンジすることができ、それが収益力のアップにつながります。
4.まとめ
このように、実効性が高いガバナンスを行っている企業は、環境変化への対応も早く、イノベーションも積極的に行っていくので、収益力も高くなり、中長期的に見ても持続的に成長でき、企業価値も高くなります。
そのため、逆にいうと、持続的な成長と高い企業価値を目指すには、まずガバナンスを強化する必要があるといえます。
これが、積極的にガバナンスを強化すべきという理由です。
従って、上場企業だけでなく、いわゆる中小企業、そして公益法人などの非営利法人も、ぜひ、積極的にガバナンス強化を進めていただきたいと考えています。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。