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内閣府による公益法人のガバナンスの強化案

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 令和元年(2019年)12月より、内閣府では「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」が開催されている。
  • 背景には、公益法人における不祥事の発生がある。
  • 不祥事を防止し、公益法人が国民の信頼を得られるようにするためにはガバナンスの強化が必要である。
  • 現在、内閣府は最終案のまとめに入っている。

1.内閣府による「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」

 内閣府では、令和元年(2019年)12月24日に第1回「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」が開催されました。

 

 この会議は、簡単に言うと、公益法人のガバナンス強化のために、新たな制度を導入するための議論の場です。この会議が終了すれば、新たな「公益法人改革」が実施されることになります。

 この会議は令和2年(2020年)11月までに計10回、開催されています。

 

 この間、「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(中間とりまとめ)」も公表され、パブリックコメントの募集も行われました。余談ですが、私もパブリックコメントを投稿しました。

 

 今回は、この公益法人ガバナンス強化の背景と主な内容を記載したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。 

2.ガバナンス強化案の背景

 現在の公益法人制度は、平成20年に導入された、いわゆる「公益法人制度改革関連三法」に基づいています。この平成20年から5年をかけて公益法人制度改革が実施されました。

 

 しかし、「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」の資料「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(最終とりまとめ案)」によると、「はじめに」の中で次の記載がなされています。

 

「それ以来 10 年以上が経過し、現行制度が安定して運用され、一定の定着が進んでいる。一方で、ガバナンスの不全を来している法人による不祥事も複数発生しており、こうした事態により、公益法人制度が持つ高い社会的信用が失われ、他の公益法人に影響が及ぶ事態も懸念される」

 

 この資料では、この後、ガバナンス強化の必要性などが述べられていますが、要は、公益法人において不祥事事例が見られることから、公益法人の信頼性を担保するためにガバナンスを強化するということが、今回の公益法人改革の目的です。

 

 なお、上流をたどると「経済財政運営と改革の基本方針2019」があり、この資料の「第3章 経済再生と財政健全化の好循環」の中の「2(1)③ EBPMをはじめとする行政改革の推進 」において次のように記載されています。

 

「また、新公益法人制度の発足から 10 年が経過したことから、公益法人の活動の状況等を踏まえ、公益法人のガバナンスの更なる強化等について必要な検討を行う。 」

 

 今回の制度改革は、この「経済財政運営と改革の基本方針2019」に基づいていますので、財政健全化も背景にあると考えられます。つまり、公益法人は税制上の優遇を受けていますが、公益法人としてふさわしくない法人は税制上の優遇を受ける必要はないということではないかと思います。つまり、実効性の高いガバナンスを実施している公益法人のみを公益法人として認めることで、公益法人の数を絞り込んでいくということも想定している可能性もあります。

3.主な内容

 現在は、「最終取りまとめ案」の段階であり、まだファイナルの段階ではありませんが、おおよその方向性は定まっています。そこで、主な内容を箇条書きで記載いたします。

(1)役員や社員・評議員のより一層の機能発揮

  • 理事、監事及び評議員のうち、それぞれ、少なくとも一人については、法人外部の人材から選任することが有効
  • 社員及び評議員の人数を定款で定めた理事の人数を超えるものとすることは有効
  • 公益財団法人の評議員にも、公益社団法人の社員と同様に、役員等の責任追及の訴えを提起することができる権限が付与される方向で検討すべき

(2)会計監査人の設置義務付け範囲の拡大

  • 会計監査人の設置義務付け範囲を拡大すべき

(3)透明性の確保の推進

  • 計算書類等、定期提出書類など行政庁が提出を受けた書類を、「請求」という手続を経なくても公益法人Informationで直ちに閲覧できるようにすべき

 以上が主な内容ですが、内閣府は、まだ最終案を整備している状態であり、パブリックコメントも踏まえて、細かいところがまだ変わる可能性があります。そのため、現時点では詳しい説明はできませんが、今後、公益法人制度改革第2弾が始まることは確実です。

 実効性の高いガバナンスを構築するには、一定の時間がかかります。今後、このブログでも公益法人ガバナンス・コードの解説などを通して、ガバナンス構築のポイントを説明していきたいと思います。

★お知らせ

 当事務所では「公益法人ガバナンス強化支援業務」というタイトルで、公益財団法人公益法人協会様が公表した「公益法人ガバナンス・コード」の項目とそれに対する当事務所によるガバナンス強化支援策を紹介した資料を作成しています。

 資料をご希望の方は、メールでご連絡いただけましたら、PDFファイルにてお送りいたします。