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京都市の財政悪化~公益法人が自主財源を確保する必要性について

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 令和2年(2020年)12月28日、京都市は市の財政を立て直すための基本方針を発表した。
  • 京都市の財政は、もともと恒常的な赤字であったことに加えて、新型コロナウイルス感染症の影響で税収が大きく減少する見込みであるため、このままでは財政危機となる可能性があるという。
  • 京都市は、公共工事の延期や職員給与の減額などを方針として示している。
  • 京都市に限らず、多くの地方公共団体においても、このような財政悪化が懸念される。
  • 財政悪化が加速すると、補助金を受けている公益法人は、補助金を削減される可能性もある。
  • 公益法人は補助金の削減可能性も視野に入れて、自主財源の確保に早急に努めるべきである

1.京都市の財政危機

 令和2年(2020年)12月28日、京都市は、市の財政を立て直すための基本方針を発表しました。

 これは、京都市の財政が危機的状況にあるためということです。もともと、京都市の財政は恒常的に赤字が続いていましたが、これに加えて、今後は新型コロナウイルス感染症の影響により、税収が大きく減少されると見込まれています。

 日本経済新聞の記事によると、京都市は、2028年には「財政再生団体」に転落しかねない状況ということです(日本経済新聞電子版2020年12月28日)。 

 今回は、公益認定を受けた公益法人(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第2条3号)が、自主財源を確保する必要性について記載します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.公益法人と補助金

 京都市は、今回の基本方針では、公共工事の延期や市の職員の給与減額などを行うとしています。

 例えば、公共工事の延期については、清水通や三条通の無電柱化事業や市営地下鉄烏丸線の車両改造などが挙げられています。 

  以前、このブログでは「公益法人も「稼ぐ」必要がある理由」で、公益法人において、今後起こりうる環境の変化について記載しましたが、その中で補助金の減額の可能性についても記載しました。

 

 以下、その時の記載内容を再掲します。

 

「(1)補助金の減額の可能性

 多くの地方公共団体は、もともと財政状態が芳しくありませんでしたが、今回の新型コロナウイルス感染症の対策のため、補助金等の対策費用が増加したところが多いと思います。そのため、多くの地方公共団体において、財政が悪化している可能性があります。 

 従って、補助金を受けている公益法人においては、受取補助金が減額される可能性はあると思います。」

(引用終わり)

 

 このように、多くの地方公共団体の財政は新型コロナウイルス感染症の影響もあり、悪化していく可能性があるので、外郭団体系の公益法人のように地方公共団体から補助金を受けている公益法人においては、補助金の減額が行われる可能性があると思います。

 従って、今後は補助金の減額の可能性もあるということも視野に入れながら、公益法人の運営を行っていく必要があります。

3.自主財源の確保の必要性

 そのためには、自主財源を確保して、補助金が減額されるといった環境変化が起こっても、それに対応できる運営体制を構築していく必要があります。

 

 公益法人は収支相償を達成する必要があるので、そのバランスが難しいのですが、基本的には、

  • 公益目的事業で剰余金を発生させ、将来の費用、将来の資産取得、公益目的事業の拡大に回す(注:公益目的事業が1つだけか複数であるかによって対応が異なってきます。)
  • 収益事業等を拡大し利益を確保する(一部は公益目的事業に振替。公益目的事業比率に注意。)

 といったところになるかと思います。

 

 将来の費用として、特定費用準備資金を活用する場合においては、「特定費用準備資金の活用法~専ら法人の責に帰すことができない事情により将来の収入が減少する場合」で記載したように、「補助金等により事業を行っていた場合において、補助金等の削減が予想され、収入の減少が見込まれていることへの対応のための基金」として、特例型の特定費用準備資金を積み立てるという方法もあります(FAQ問Ⅴ-3-⑦より)。

 

 もちろん、一口に利益を発生させるといっても簡単には行きません。

 その方策の1つとしては、以前、「ガバナンスの強化が持続的成長と企業価値向上につながる理由」でも記載したようにガバナンスの強化が挙げられます。

 以下、そのときに記載した文章を引用します。

 

「 「『経営監査へのアプローチ』(PwCあらた有限責任監査法人編:清文社)」P236~237によると、実効性が高いガバナンスを実現できている企業は、外部環境の急速な変化に迅速に対応できるとされています。さらに、多様な考え方やアイデアを受け止めてイノベーションに挑戦できるということです。

 そのため、中長期的に持続可能であり、ガバナンスが弱い企業よりも企業価値を高く評価できるということです。」(引用終わり)

 

 このように、公益法人においても、実効性の高いガバナンスの構築により、外部環境の変化に対応し、ダイバーシティの実現により多様な考え方やアイデアを取り入れ、収益力を高めていく必要があります。

 

 なお、法人会計で黒字を発生させる方法は、合理的な理由がないにもかかわらず、多額の黒字が恒常的に発生するような状態は、適切ではないとされていますので注意が必要です(FAQⅤ-8ー②)。 

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

 令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

 PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

 上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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