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役員の選任方法における留意点~公益法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公益法人の役員は社員総会または評議員会で選任されるが、その選任方法は各候補者について個別に選任決議を行う必要があり、一括決議によることは認められない。
  • この点は内閣府・公益認定等委員会においても指摘されているので注意が必要である。

1.はじめに

 一般社団法人、公益社団法人では社員総会で、一般財団法人、公益財団法人では評議員会で理事及び監事を選任します(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)63①、177条)。

 今回は、役員の選任方法についての注意点を記載します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。 

2.個別決議と一括決議

内閣府・公益認定等委員会 「法人運営における留意事項」P3より
内閣府・公益認定等委員会 「法人運営における留意事項」P3より

 この役員の選任方法については、複数人を一括で決議することなく、各候補者について個別に選任決議を行う必要があります。

 この点については、旧ブログ「役員選任の決議方法の実務~個別決議と一括決議」でも記載しましたが、いま一度、簡単に記載いたします。

 

 一括決議が不可である理由は、一括決議を行ってしまうと、社員または評議員の意思が反映されないことになり、理事の選任過程の適正性を確保できなくなってしまうためです。

 例えば、理事候補にA氏、B氏、C氏の3人がいたとき、ある社員または評議員にとってA氏、B氏の選任については賛成であるものの、C氏については反対といった場合、一括決議を行ってしまうと、その社員または評議員の意思が反映されないことになってしまいます。

 従って、社員総会または評議員会において役員の選任を行う場合は、個別決議を行うことが必要です。

 

 個別決議の具体的な方法は、各候補者ごとについて選任の議案を設けて、それぞれの議案について決議を行っていくという方法になります。

 

 なお、この点については、内閣府の「「立入検査」における主な指摘事項を踏まえて」において、役員の選任については個別に決議を要する旨が記載されています。

 また、「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(平成20年10月10日 内閣府公益認定等委員会) のP13では社員総会又は評議員会で理事の選任議案を採決する場合には、各候補者ごとに決議する方法を採ることが望ましくと記載されています。

 

3.書面による議決権の行使の場合

 一般社団法人、公益社団法人の場合、書面による議決権の行使も行っている法人は多いと思います。

 この場合、当日にリアルの社員総会を開催する前に、すでに過半数の賛成が得られていて、結果が明らかになっているような場合もあります。

 

 この場合においても、当日のリアル総会で個別決議が必要なのかというと、この場合は、一定の要件を満たせば、一括決議を行っても問題はないと考えられます。

 

 この点については、上記の「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(平成20年10月10日 内閣府公益認定等委員会)において、注書15で以下のように説明されています。 


「しかし、議決権行使書面による議決権の行使の結果、社員総会の開催前に、複数の役員の選任議案のすべてについて過半数の賛成がそれぞれ得られているような場合であって、社員総会において、議長が複数の役員の選任議案を候補者全員一括で決議(採決)することを出席している議場の社員に諮り、それに異議が出ない等のときは、役員候補者全員の選任議案を一括で決議(採決)することも許容され得る。」

 

 このように「社員総会において、議長が複数の役員の選任議案を候補者全員一括で決議(採決)することを出席している議場の社員に諮り、それに異議が出ない等」を要件として進めていけば、一括決議を行うことは可能と考えられます。

 

 ただし、書面による議決権の行使の結果については、集計過程に透明性をもたせて、恣意的な操作がないことを社員全員に明らかにしておく必要があります。

4.おわりに

 役員の選任を適切に行うことは、公益法人のガバナンスとして必要なことです。

 内閣府は、現在、公益法人のガバナンス強化を行うため、制度改正を考えています(「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」参照)。

 役員の選任も形だけで行うのではなく、社員や評議員の意思を反映できるように行っていく必要があります。

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

 令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

 PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

 これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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