· 

電話加入権の減損~公益法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公益法人会計の固定資産の減損会計は原則として強制評価減である。
  • 減損の対象となる固定資産は土地や建物等といった強制評価減の対象になるおそれのあるものとなる。
  • このことから、什器備品や車両運搬具についてまで時価の把握をする必要はないが、電話加入権等については、時価が著しく下落しており、その金額に重要性があるような場合は時価評価が必要になるので注意が必要である。

1.はじめに

 公益法人会計においても、一定の要件を満たす場合は減損会計の適用が必要となりますが、公益法人会計の減損会計は、企業会計の減損会計とは、その要件や計算方法が異なっています。

 今回は、公益法人が保有する固定資産のうち、電話加入権の減損会計の適用の要否について記載したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.公益法人の減損会計

 公益法人会計における減損会計は、原則として強制評価減となります。

 まず、「公益法人会計基準」では、第2 3(6)において、

 

「資産の時価が著しく下落したときは、回復の見込みがあると認められる場合を除き、時価をもって貸借対照表価額としなければならない。ただし、有形固定資産及び無形固定資産について使用価値が時価を超える場合、取得価額から減価償却累計額を控除した価額を超えない限りにおいて使用価値をもって貸借対照表価額とすることができる。」

 

 と規定されています。(赤字は筆者。以下同様。)

 

 これを受けて「公益法人会計基準に関する実務指針」(日本公認会計士協会)では、Q42において、公益法人における固定資産の減損会計の適用の手順についてフローチャートでまとめています。 

3.電話加入権の減損の要否の判定方法

(1)実務指針の内容

黒電話

 「公益法人会計基準に関する実務指針」(日本公認会計士協会)は、続けてQ43で時価評価の対象範囲について説明しています。

 以下はQ43の質問事項です。

 

「Q42における減損会計の適用の有無に関する図解の【判定1】は「固定資産の時価は下落しているか?」となっていますが、全ての固定資産について時価を調査する必要があるのでしょうか。」

 

 これに対して回答は次のように記載されています。

 

「公益法人における固定資産の減損会計は、Q42に記載のとおり、原則として強制評価減である。したがって、対象となる固定資産は強制評価減の対象になるおそれのあるものである。

 例えば、バブル期に取得した土地及び建物等の固定資産の時価が著しく下落していないかどうかというような場合であり、通常に使用している什器備品や車両運搬具まで厳密に時価を把握する必要はない。ただし、電話加入権等の時価が著しく下落しており、その金額に重要性があるような場合には時価評価が必要になる。

 なお、公益法人における固定資産の減損会計は、企業会計と異なり、減損の兆候の有無に関係なく、時価と帳簿価額との比較が行われることに留意する。」

 

 このように、電話加入権についても減損の要件を満たしている場合は、時価評価が必要となります。

 また、「なお、」以下に記載されているように、公益法人会計では減損の兆候の有無の判定は行いませんので、企業会計の減損会計基準で定める減損の兆候がなくても、減損の要件を満たした場合は時価評価を行うことになります。

(2)時価の著しい下落とは

 次に問題となるのは「時価の著しい下落」の意義ですが、この点についてもQ45では「固定資産について、時価の著しい下落とはどのような場合ですか。また、その回復可能性はどのように判断するのでしょうか。」という質問に対して、次のように回答が記載されています。

 

平成20年会計基準運用指針「11.資産の時価が著しく下落した場合について」において「資産の時価が著しく下落したときとは、時価が帳簿価額から概ね50%を超えて下落している場合」とされている。この場合の時価は、企業会計と同様に、公正な評価額で把握することになる。通常、それは観察可能な市場価格をいい、市場価格が観察できない場合には合理的に算定された価額(例えば、不動産鑑定評価額等)を用いることになる。

 また、その回復可能性は、相当の期間に時価が回復する見込みであることを合理的な根拠をもって予測できるか否かで判断することが必要となる。」

 

 このように、まず時価と帳簿価額を比較して、概ね50%を超えた下落となっている場合は、減損の可能性を考える必要があります。そして、回復可能性がないと判断された場合は、減損を行うことになります。

(3)使用価値による評価はできるのか?

 公益法人会計の減損会計では、原則として強制評価減ですが、「例外として、帳簿価額(取得価額から減価償却累計額を控除した価額)を超えない限り、使用価値で評価することもできる。」とされています(「公益法人会計に関する実務指針」Q42の回答)。
 すなわち、強制評価減の要件を満たしているものの、一定の要件を満たした場合は、使用価値が時価より高いときにおいて、例外処理として使用価値で評価できるということです。滅多にありませんが、仮に、使用価値が帳簿価額を超えていれば、減損は不要ということになります。

 

 しかし、使用価値により評価できるのは、対価を伴う事業に供している固定資産に限られるとされています(「公益法人会計に関する実務指針」Q42の回答)。

 

 電話加入権については、電話加入権単独で対価を伴う事業に供しているかとなると、なかなかその判断は難しいところです。

 また、電話加入権が対価として得る将来キャッシュ・フローを合理的に見積もることも、実務上は困難と考えられます。

 

 これらを鑑みると、電話加入権については例外処理の適用は極めて困難であり、通常は原則である強制評価減の適用になると考えられます。 

(4)表示区分

 減損損失は、正味財産増減計算書では経常外費用として計上することになります。

 貸借対照表では、電話加入権なので減損処理前の取得価額から減損損失を直接控除し、控除後の金額をその後の取得価額とすることになります。(「公益法人会計基準の運用指針」12(2)、「公益法人会計基準に関する実務指針」Q47)。

3.おわりに

 電話加入権は、昔は1回線72,000円(税抜)でしたが、その後36,000円(税抜)になっています(NTT東日本「施設設置負担金の見直しについてのお知らせ」、NTT西日本「施設設置負担金の見直しについて」)。

 一方、時価となると、現在は、これらの金額と比較すると著しい下落となっているのではないでしょうか。また、時価の回復可能性についても、電話加入権の時価が回復する可能性は、極めて低いと思います。

 

 時価をどのように判定するのかは実務上難しいところですが、上記の公益法人会計における減損の要件を満たしていると判断される場合は、電話加入権も時価で評価することが必要です。

 

 以上、参考としていただけますと幸いです。

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

 令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

 PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

 これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。