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職員による着服事例と内部統制

公認会計士・税理士  森 智幸

KEY POINTS

  • 経理を1人に任せると横領のリスクが高くなるため、出納と会計は別の人にする。
  • 印鑑は責任者が管理し、誰もが使えるような状態にしない。
  • 休眠口座は不正に利用される恐れがあるので解約する。
  • 残高証明書の偽造のリスクもあるので注意する。

1.はじめに

 最近、ある一般社団法人において、職員による横領が発覚したというニュースが報じられました。

 記事のみでは、実際の内容はわかりませんが、今回は職員による横領を防止するための内部統制について説明します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.事件の概要

 いくつかの新聞記事によれば、その職員は協会名で不正な融資を受けており、その金を横領していたということです。また、この職員が一人で経理を担当しており、通帳、印鑑、キャッシュカードも管理していたということです。

 

 実際の内容はわかりませんが、記事を見る限り、職員が一人で経理を担当し、通帳、印鑑、キャッシュカードも管理するというのは、横領が発生する可能性が高くなる典型的な内部統制の不備といえます。

 

 以下、着服を防止するための内部統制の構築のポイントについて説明します。

3.着服を防止するための内部統制

(1)印鑑の管理

 記事によれば、銀行から融資関連の申請書が偽造されているという連絡があったということですが、どのような偽造なのかは記事からはわかりません。

 しかし、融資の申請書を作成するときに代表印を使用した可能性はあります。

 

 印鑑が不正に使用されると、法人に損害が生じる可能性があるのでその管理は厳重にする必要があります。

 印鑑の不正使用への主な対策は以下のとおりです。

  • 通帳と銀行印は別の場所に保管する(一緒に保管しない)。 
  • 印鑑を使用する場合は承認を得ることとし、記録簿を作成する。
  • 印鑑は管理責任者のみが管理する(誰もが使用できる状態にしない)。 

(2)休眠口座の解約

 この事案に限らず、不正融資を受ける場合は、簿外で処理される可能性があります。簿外処理されると発見が難しくなります。

 

 簿外処理の方法の一つとして、休眠口座を使うという方法が考えられます。

 融資を受けて横領しようと思っても、さすがに個人の預金口座に入金するということはできません。そこで、法人名義の休眠口座を使用するというわけです。法人名義であれば、金融機関も疑わずに融資してしまう可能性はあります。

 

 従って、不正防止の観点から休眠口座がある場合は解約することが望まれます。

 また、本当に解約されたかどうかを確認するため、解約証明書の入手とチェックも必要です。

(3)銀行残高証明書

 金融機関より残高証明書を入手する場合も注意が必要です。

 残高証明書については偽造の防止が必要です。過去の着服事例では銀行残高証明書を偽造していたというケースもあります。

 そこで、以下の対策が考えられます。

  • 残高証明書は、未開封の状態で、理事長などの責任者に届けるようにする。
  • 理事長などの責任者は、残高証明書に押印して原本証明を行う。

(4)職務の分離

 過去の着服事例を見ますと、経理、出納、通帳や印鑑の管理を1人の人物が行っていたというケースが多く見られます。

 これらの業務を1人に任せてしまうと相互の牽制が働かなくなるため、不正発生の可能性が高くなります。

 そこで、以下の対策が考えられます。

  • 現金の出納担当者と会計担当者は別の人にする。
  • 担当者を長期間同じ人にしない。
  • 強制休暇をとらせる。

4.おわりに

 横領は「まさかあの人が!?」というケースがよく見られます。

 今回の事案も、ある新聞の記事には「職員は真面目だったので、信用していた。」という記載が見られました。

  人を疑うというわけでありませんが、不正はどのような動機やきっかけで発生するかはわかりません。 

 従って、不正を防止するための内部統制の整備と運用は常に必要です。 

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