公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 内閣府では、公益法人の不正防止のため、公益法人のガバナンス強化について取りまとめが行われている。
- その方策の1つとして、理事、監事及び評議員のうち、それぞれ、少なくとも1人については法人外部の人材から選任するという案が提言されている。
- 趣旨は、業務執行の牽制・監督・監査に外部の視点を入れて、その実効性を高めるという点にある。
- ただし、小規模法人の実態を鑑み、まずは一定規模以上の法人からスタートすることが提言されている。
- 私見では、一定規模未満の法人であっても、法人外部の人材を選任してガバナンスの強化を行うことが望ましいと考える。
1.はじめに
内閣府では、公益法人において不正事例がみられることから、公益法人のガバナンスの強化等について方策を検討しています。
「公益法人のガバナンスの更なる強化等に関する有識者会議」は令和2年11月30日に第10回の会議が開催されましたが、その後の令和2年12月25日に「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(最終とりまとめ)」が公表されました。
今回は、このうち、理事、監事及び評議員のガバナンスの強化案について説明します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.外部人材の選任の必要性
「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(最終とりまとめ)」2.(1)①では、
「業務執行への牽制・監督・監査の機能を担う理事、監事及び評議員のうち、それぞれ、少なくとも一人については、法人外部の人材から選任することが有効であり、法制上の措置としては、この点を公益認定基準の一つに追加することも一案と考えられる。」
という提言が行われています。
これは、公益法人では、役員の3分の1規定が設けられているものの、ガバナンスが有効に機能しなかった公益法人の事例を見ると、理事や評議員が法人の事業に関係する関係者で占められていたため、不正に対して客観的・第三者的な視点で判断することがなかったことが原因の1つであると考えられるためです。(【事例1】~【事例4】)
一方で、不正をおこした公益法人の中には、その後、外部の理事や評議員を選任してガバナンスの改善を行ったという事例も見られます。(【事例5】~【事例7】)
そこで、有識者会議では、このように理事、監事及び評議員のうち、それぞれ、少なくとも1人については、法人外部から選任することを提言しています。
余談ですが、私の場合、役員の就任依頼ではないものの、不正をおこした公益法人から、内部統制の改善提案とモニタリングのご依頼を受けたことがあります。これは、その法人の監事より「外部の視点を入れたほうがよい」という提言があったためでした。
人間は弱いもので、身内だけだとどうしても自分や他人の行為に対して甘くなります。
そのため、全く法人としがらみのない外部の人を役員又は評議員として選任することは有効であると考えられます。
3.「法人外部の人材」とは
このように外部人材を選任することが重要であることはわかりましたが、それでは、「法人外部の人材」とはどのような人を指すのかが次に問題となってきます。
「公益法人のガバナンスの更なる強化等のために(最終とりまとめ)」では
「いかなる人材であれば「法人外部の人材」と言えるかについては、私立学校法(昭和24年法律第270号)の理事又は監事に係る規定(第38条第5項)や会社法の社外取締役の定義(第2条第15号)、 株式会社東京証券取引所の「有価証券上場規程」(平成19 年11月1日)やスポーツ庁の「スポーツ団体ガバナンスコード<中央競技団体向け>」(令和元年6月10日)も参考に検討するべきである。」
としています。
その上で、注記4で以下の例を挙げています。
- 過去の一定期間から現在に至るまで、法人(又はその子法人など法人と関係の強い主体)の業務執行役員・従業員ではない。
- その法人を主要な顧客とする者(又はその者の業務執行者)ではない。
- その法人の主要な顧客(又はその者の業務執行者)ではない。
- その法人の事業分野に長期間携わってきた者ではない。(法人の事業分野との関係に係る観点であり、当該法人そのものとの関係ではないことに鑑み、運用に必要な留意点等について更に検討を行う必要がある。)
- 上記に該当する者の近親者ではない。
「その法人の事業分野に長期間携わってきた者ではない。」という例で思い浮かぶのは、業界団体や観光協会といった公益法人です。業界団体や観光協会では、理事がその地域の業界団体の代表者で占められているという法人は多いと思います。
4.おわりに
このような、外部人材の選任は、すべての法人において行われるべきだと思いますが、内閣府からは、以下のように、最初は一定規模以上の法人について適用するという方針が示されています。
「このような外部人材活用の仕組みは、本来は、法人の規模の大小に関わらず必要と考えられるが、小規模な法人の事業や運営の実態なども踏まえ、まずは、一定規模以上の法人に限り求めることとし、この範囲は、その後の監督状況等を踏まえて見直すこととすべきである。」
しかしながら、私見では、ガバナンス強化のためには、一定規模未満の公益法人であっても、理事、監事及び評議員について、少なくとも1人については外部の人材を選任することが望ましいと考えています。
なぜかというと、外部の人材の選任は、ガバナンス強化により不正の発生を防止するということのみならず「ガバナンスの強化が持続的成長と企業価値向上につながる理由」にも記載したように、ガバナンスがしっかりしている法人は、外部環境の変化への対応や多様な考え方・アイデアの受容が進むことにより、公益法人の法人運営の安定につながるためです。
以上、参考としていただけましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、J-SOX支援、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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