公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策とは、具体的には事業計画と資金繰り計画である。
- この事業計画と資金繰り計画に基づき、翌事業年度において資金が1年間もつと判断すれば、重要な不確実性は認められないとされ、継続企業の前提に関する注記は不要である。
- 逆に、資金が1年間もつかどうかが必ずしも明らかではない場合は、重要な不確実性が認められることになり、継続企業の前提に関する注記が必要となる。
1.はじめに
今回は「継続企業の前提に関する注記」について、実務上の留意点を記載いたします。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.継続企業の前提に関する注記に至るまでの流れ
(1)継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況の存在と対応策
継続企業の前提に関する注記は、会社の業績が悪化したらすぐに記載されるものではなく、一定の順序を経て検討されます。
具体的には、期末において「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況」が存在すると認められるかどうかがスタートとなります。
この「継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況 」が存在すると認められた場合は、経営者はこのような事象又は状況を解消し、又は改善するための対応策を策定することになります。
この「対応策」とは、会社が破綻しないようにするための施策(例えば、第三者割当増資、事業や資産の売却など)となりますが、このとき重要になるのが、このような施策を盛り込んだ「事業計画」と「資金繰り計画」です。
すなわち、翌事業年度において達成可能な事業計画を立案し、その事業計画に基づいた資金繰り計画をたてるということです。
(2)重要な不確実性の有無
この対応策により、継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められないという場合であれば、継続企業の前提に関する注記は不要です。
しかし、このような対応策をとっても依然として継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められるときは、継続企業の前提に関する注記が必要となります。
この「継続企業の前提に関する重要な不確実性」が認められない、あるいは認められる、という表現の意味がわかりにくい方もいらっしゃると思いますが、これは具体的に言うと「資金が翌事業年度において1年間もつかどうか」ということです。
会社が継続するには資金繰りが事業年度の途中で破綻しないことが必要です。
従って、対応策、つまり「事業計画」と「資金繰り計画」を検討した結果、資金が1年間もつと判断すれば注記は不要、資金が1年間もつかどうかはわからないと判断すれば注記が必要ということになります。
3.「事業計画」と「資金繰り計画」の注意点
「事業計画」と「資金繰り計画」ですが、当然のことながら実現可能なものである必要があります。そうでないと「絵に描いた餅」となってしまい、検討に値しないものとなってしまいます。
従って、事業計画は100%確実なものを立案する必要があります。また、資金繰り計画は事業計画に基づいていますから、事業計画が100%達成可能なものでないと、資金繰りも達成可能なものではなくなってしまいます。会社が継続するためには資金繰りが破綻しないことが必要ですから、事業計画は希望的観測に基づいたものではなく、100%達成可能なものを計画する必要があります。
4.おわりに
継続企業の前提に関する注記の記載は、企業の今後を変えてしまう可能性があるものなので非常に重要です。
ポイントは資金が1年間もつかどうかなので、この実現可能性について慎重に検討する必要があります。