公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 特定費用準備資金は期末日までに積立てておく必要がある。
- 特定費用準備資金を積立てる場合は、専用の銀行口座を設け、規程に基づいた手続(理事会決議など)を経る必要がある。
- 帳簿上で預金の切り分けをすることは不可なので注意する必要がある。
1.はじめに
公益社団法人、公益財団法人(以下「公益法人」)は3月決算の法人が多く見られます。公益目的事業会計において収支相償を満たすことが難しい場合、特定費用準備資金を積み立てるケースも多く見られます。
そこで、今回は、特定費用準備資金を積み立てる場合の積立時期の注意点について説明します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.認定法施行規則の規定
(1)計上要件
3月決算の公益法人が、進行事業年度の特定費用準備資金として当該資金を積み立てる場合は、3月末日までに積み立てる必要があります。
この特定費用準備資金の積立時期については、法令に明文の規定はありませんが、公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則(以下「施行規則」)18条3項では、特定費用準備資金への繰入について、以下の要件が規定されています。
3 第一項に規定する特定費用準備資金は、次に掲げる要件のすべてを満たすものでなければならない。
一 当該資金の目的である活動を行うことが見込まれること。
二 他の資金と明確に区分して管理されていること。
三 当該資金の目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は当該場合以外の取崩しについて特別の手続が定められていること。
四 積立限度額が合理的に算定されていること。
五 第三号の定め並びに積立限度額及びその算定の根拠について法第二十一条の規定の例により備置き及び閲覧等の措置が講じられていること。
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(2)他の資金との区分
まず、「二 他の資金と明確に区分して管理されていること。」についてですが、FAQⅤ-3-④では、さらに次のように具体的に記載されています。
「資金の目的毎に他の資金と明確に区分して管理され、貸借対照表の特定資産に計上していること。」
すなわち、特定費用準備資金はその目的ごとに専用の銀行口座を設けることが必要であるということです。これは、特定費用準備資金はその特定の目的のみに使用される必要があるため、他の資金と混在してしまうと、特定費用準備資金が別の目的に使用されてしまう恐れがあるためです。
そして、貸借対照表の特定資産に計上するということは、貸借対照表日である期末日(3月決算であれば3月31日)までに特定資産として会計処理する必要があるということです。
実務上の留意点としては、近年はマネーロンダリング対策のため、法人が銀行口座を開設するときには時間がかかることから、早めに口座開設の手続きを行う必要があるという点です。
(3)規程の整備・運用
次に、「三 当該資金の目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は当該場合以外の取崩しについて特別の手続が定められていること。」ですが、同じくFAQⅤ-3-④では、次のように記載されています。
「資金の目的である支出に充てる場合を除くほか、取り崩すことができないものであること又は目的外で取り崩す場合に理事会の決議を要するなど特別の手続が定められていること」
この要件は、特定費用準備資金の取崩しについて、一定の手続を定めることを要求したものですが、実質的には、法人において規程等を設けることを要求したものといえます。
また、実務上は、規程等において取崩しに関してだけでなく、積立てる場合の手続についても定めることが通常です。多くの公益法人では、特定費用準備資金の積立においては、理事会決議を必要とするとしていると思いますが、これはガバナンスの点からも望ましいといえます。
したがって、特定費用準備資金を積立てる場合に理事会決議が必要である公益法人は、期末までに理事会を開催して、積立の決議を行う必要があります。3月決算の公益法人の場合、3月の事業計画等の承認のための理事会で決議される法人が多く見られます。
これが、6月の決算承認理事会だと、期末日はすでに過ぎているため、貸借対照表日までに間に合わないことになります。
3.預金の切り分けは不可
このようなことから、特定費用準備資金は期末日までに積立てる必要があります。
そのため、新年度になってから、決算整理で、帳簿上、普通預金の一部を特定費用準備資金に切り分けて計上するという会計処理は不可となります。これは、他の資金と明確に区分するという趣旨にも反します。
もし、預金の切り分けを行った場合、行政庁が立入検査のときに残高証明書を閲覧すれば、すぐにわかってしまいます。この場合、文書指摘になる可能性もあるので注意が必要です。
したがって、財産目録に特定資産として計上した特定費用準備資金の残高と、残高証明書に計上された特定費用準備資金の口座の残高が一致するよう、特定費用準備資金は期末日までに積み立てておく必要があります。
4.おわりに
特定費用準備資金は、多くの公益法人では理事会決議が必要であり、また、専用の銀行口座も設ける必要があることから、早めの準備が必要です。
そのためには、12月から1月あたりには決算予測を行い、公益目的事業会計の当期経常増減額を予測しておく必要があります。
今回の説明が実務の参考になりましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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