公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 理事の報酬等については、お手盛り防止のため、理事又は理事会が報酬等の額を定めることは認められない。
- 理事の報酬等の額の総額を社員総会又は評議員会で決定し、個々の報酬額は理事会で決議する方法は認められる。
- 退職慰労金も理事の報酬等に含まれる。
1.はじめに
一般・公益社団法人、一般・公益財団法人では、理事の報酬は無報酬という法人が多く見られます。一方、理事に対して報酬を支給している法人も、もちろん見られます。
この理事の報酬の額の決定については、株式会社と同じく、お手盛りの防止のため、一定の規制が設けられています。
今回は、理事の報酬の額の決定方法の留意点について説明します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.お手盛りの防止
理事の報酬等(報酬、賞与その他の職務執行の対価として一般社団法人等から受ける財産上の利益をいう。以下同じ。)は、定款にその額を定めていないときは、社員総会又は評議員会の決議によって定めるとされています(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」89条、197条)
実務では、定款に報酬等の額を定めていることは少なく、社員総会又は評議員会の決議によって理事の報酬額を定める法人が多いと思います。
このように、定款あるいは社員総会又は評議員会において理事の報酬額を定めるとされているのは、理事ないし理事会によるお手盛りの弊害を防止するためです。
例えば、代表理事の一存で理事の報酬額を決めることができるとすると、いくらでも自分の好きなように高額の金額を定めることが可能となってしまいます。このようなことになると、法人の利益を害することにもなりかねません。
そのため、法は理事の報酬等の額の決定について一定の規制を設けているというわけです。
3.総額の上限を定める方法は認められるか
(1)内閣府のFAQ
理事の報酬の額を、社員総会又は評議員会で定める場合、条文に従えば、個々の理事の報酬等の額を社員総会又は評議員会で定めるということになりそうですが、実務では、理事の報酬等の総額を定め、個々の理事の報酬等の額については、理事会で決議するという方法をとられる法人が多いと思います。
では、この方法は認められるのでしょうか?
この点については、内閣府のFAQ問Ⅴ-6ー①において、以下の通り、内閣府もこの総額の上限を定める方法を認めています。
「理事によるお手盛りを防止するという一般社団・財団法人法の趣旨からは、定款又は社員総会若しくは評議員会においては、理事の報酬等の総額を定めることで足り、理事が複数いる場合における理事各人の報酬等の額を、その総額の範囲内で理事会の決議によって定めることは差し支えないと解されます。」
また、この点については、FAQ問Ⅴ-6ー④においても、以下のように記載されています。
「社員総会又は評議員会において報酬等の総額を定められている場合には、具体的な金額の算定方法等に係る基準について理事会又は監事の協議で決定することは可能です。」
したがって、社員総会又は評議員会で、理事の報酬等の総額を定め、その後、理事会において、個々の理事の報酬等の額を決議しても問題はありません。
なお、公益社団法人、公益財団法人は、各法人で定めた役員等の報酬の支給基準に従って、支給する必要があります(公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律第20条)。
これは、公益法人の理事等の報酬等が、民間事業者の役員の報酬等や公益法人の経理の状況に照らし、不当に高額な場合には、法人の非営利性を潜脱するおそれがあり、適当でないためです(FAQ問Ⅴ-6-①参照)。
(2)会社法の判例
参考ですが、会社法(旧商法)においても、最高裁判所の判決(昭和60年3月26日)において、以下のように判示しています。
「商法二六九条の規定の趣旨は取締役の報酬額について取締役ないし取締役会によるいわゆるお手盛りの弊害を防止する点にあるから、株主総会の決議で取締役全員の報酬の総額を定め、その具体的な配分は取締役会の決定に委ねることができ、株主総会の決議で各取締役の報酬額を個別に定めることまでは必要ではなく(以下、省略)」
なお、商法269条は、現行の会社法の361条にあたります。
一般法の条文は、会社法の条文のコピペですが、会社法の趣旨は一般法にも通じるといえます。
このように、内閣府のFAQにおける見解の裏には、会社法の判例があると推測されますので、理事の報酬等の総額の上限を定め、理事会において、個別の具体的な金額を理事会で定める方法は、法の趣旨に照らしても問題はないといえます。
3.退職慰労金について
法人によっては、退職慰労金を支給する法人もあるかと思います。
この退職慰労金が、報酬等に含まれるかどうかについては一般法においては明らかにされていませんが、退職慰労金も報酬等に含まれるものと考えられます。
まず、会社法では最高裁判所が以下のように判示しています(昭和39年12月11日)。
「株式会社の役員に対する退職慰労金は、その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り、商法二八〇条、同二六九条にいう報酬に含まれるものと解すべく、これにつき定款にその額の定めがない限り株主総会の決議をもつてこれを定むべきものであり、無条件に取締役会の決定に一任することは許されない」
次に、一般法89条においても、報酬等の定義について括弧書きで「報酬、賞与その他の職務執行の対価として一般社団法人等から受ける財産上の利益をいう。」と定めています。
そのため、一般法においても、退職慰労金は在職中における職務執行の対価として支給されるものであることから、報酬等に含まれるものと考えられます。
実際、内閣府のFAQでは、退職慰労金も報酬等に含まれることを前提として、その額の算定方法を記載しています。
以下は、FAQ問Ⅴ-6ー⑥の抜粋です。
「また、退職慰労金について、退職時の月例報酬に在職年数に応じた支給率を乗じて算出した額を上限に各理事については理事会が、監事や評議員については社員総会(評議員会)が決定するという方法も許容されるものと考えられます。(問V-6-4及び5参照)」
したがって、退職慰労金の額についても、報酬等と同じ方法で決定する必要があります。
4.おわりに
一般・公益社団法人、一般・公益財団法人では、理事は無報酬で引き受けられている法人が多いと思います。
しかしながら、場合によっては法人の方針を変更して、一部の理事に報酬を支給するということもありえます。
そのような場合、それまで報酬等の額の決定についての手続きの経験がないことから、何かと混乱する可能性があります。したがって、報酬の額を決定する場合は条文等の定めに準じて、法令に抵触しないように注意する必要があります。
今回の記載が参考となりましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人リスク・デジタル・アシュアランス部門ではアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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