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代表理事を選定する理事会を招集手続の省略により開催する場合の注意点|一般法人・公益法人

公認会計士・税理士 森 智幸

1.はじめに

 一般社団法人・一般財団法人(以下「一般法人」)や公益社団法人・公益財団法人(以下「公益法人」)では、代表理事を選定するときは、社員総会または評議員会で理事を選任後、理事会を開催して代表理事を選定することになります。

 この理事会を、社員総会または評議員会終了後に、招集手続の省略によって開催するときは注意が必要となります。

 今回は、理事会の招集手続の省略に係る実務と注意点について記載いたします。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

2.招集手続の省略を行う場合の注意点

(1)招集手続の省略とは

 理事会を開催するためには、理事会を招集する者が、原則として理事会の日の一週間前までに、各理事及び各監事に対してその通知を発しなければなりません(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)94条1項)。

 

 しかしながら、理事会は、理事及び監事の全員の同意があるときは、招集の手続を経ることなく開催することができます(一般法94条2項)。これが招集手続の省略による方法です。

 

 これは、①社員総会または評議員会終了後に理事会を開催して新しい代表理事を選定する場合や、②緊急の理事会を開催する必要があり、1週間待てない場合といったケースにおいて行われます。

(2)招集手続の省略を行う場合の注意点

 ここでは、社員総会または評議員会終了後、同日に代表理事を選定する理事会を招集手続の省略によって開催する場合の注意点を記載します。

①欠席者を含む全員から同意を得る必要あり

 招集手続の省略を行う場合は、上記の通り理事及び監事の全員の同意が必要です(一般法94条2項)。

 したがって、必ず理事会開催前までに理事及び監事全員から同意を得ておく必要があります。

 また、「理事及び監事全員の同意」とされていることから、欠席者も含むので注意が必要です。

 したがって、欠席者からも同意を得る必要があります。

②重任ではない新理事・新監事からは?

 同意を得る理事及び監事は、代表理事を選定する理事会に出席すべき理事及び監事となります。

 この場合、全く初めてその法人の理事または監事に就任する人は、社員総会または評議員会で理事または監事の選任決議が行われるまでは役員ではありません。

 しかしながら、選任決議が行われた後は理事または監事となりますから、新たに就任する理事または監事からも同意を得る必要があります。 

3.実務上の方法

 この同意を得る具体的な方法については、法令には明文の規定はありません。

 そのため、電話など口頭でも法令上は問題はありませんが、ガバナンスの観点からは同意を得たことを書面に記載しておくことが望まれます。 

 ここでは、書面の記載方法を紹介いたします。

(1)議事録への記載

①議事録に記載する理由

 書面で記録を残す方法の例としては、議事録に理事および監事全員の同意があった旨を記載するという方法があります。

 もちろん、この方法は法令で求められているものでありませんが、実務上は「ほぼ必須」と考えてよいと思います。

 というのは、次に掲げる同意書の入手以外で、理事および監事全員の同意があった旨を書面で残すとなると、議事録以外にはないためです。

②滋賀県の指摘事例

  なお、以下は滋賀県の立入検査での指摘事例ですが、「理事および監事全員の同意を得ておらず、また議事録への記載もなかった。という指摘が行われています。(「立入検査・事業報告等の審査でよくある指摘・指導事項」より) 

 

滋賀家による立入検査の指摘事例
滋賀県による立入検査の指摘事例

 

 したがって、まず、欠席者も含む理事および監事全員から同意を得ることが前提ですが、それに加えて最低限、議事録にも同意を得た旨の記載を行うことが、法人のガバナンスという点で望ましいといえます。

 

③記載例

  書き方としては、例えば

 

「本理事会は、欠席者も含む理事および監事全員から同意があったため、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第94条第2項の規定に基づき、招集の手続を経ることなく開催することとなった。」

 

という記載が考えられます。

 

 このように、少なくとも議事録には、全員の同意があったため招集の手続を省略して理事会を開催した旨を記載することが望まれます。

(2)同意書の入手

 その他では、事前に理事及び監事全員から同意書を得るという方法もあります。

 この方法は、社会福祉法人を監督する所轄庁の一部が様式例をあげて紹介している方法ですが、この方法であれば、最も強力な証明力をもつ書面となります。

 

 ただ、私見では、このようなフォーマルな形式の同意書を得ることまでは行わなくてもよいのではないかとは思います。

 また、もし同意の記録を残す場合は、例えばメールによる回答やGoogleフォームの回答でもよいのではないかと考えています。

 

 なお、社会福祉法では、第45条の14第9項において、一般法94条が準用されているため、社会福祉法人においても、理事会の招集手続の省略の方法は全く同じとなります。

 

 参考ですが、埼玉県久喜市の様式例におけるコメントでは、

 

「同意の方式に定めはなく、口頭(面会または電話など)でも有効ですが、書面にしておくと各役員の同意の意思が明確になり、招集手続を省略して行った理事会の決議の有効性をより強く証明できますので、各役員の同意は書面にしておくことが賢明です。なお、口頭による同意のみの場合は、理事会の冒頭で全役員の同意により招集手続を省略して開催することを宣言し、これを議事録にとどめておく対応をお勧めします。」

 

 とされています。

 

 なお、埼玉県久喜市の様式例はこちらとなります。

 久喜市の様式例では、個人別に徴収するケースと全員分の同意を1枚の同意書で行う場合の2種類が紹介されています。

4.おわりに

 招集手続の省略は、代表理事を選定する理事会で行われることが多いですが、欠席者を含めた理事及び監事全員から事前に同意を得ていないケースがよく見られます。

 したがって、全員から同意を得た上で、少なくとも議事録にはその旨を記載することが必要です。

 これが行われないと、法令に抵触することになることから、立入検査では文書での指摘となる可能性が高いので注意が必要です。

 今回の記事が実務の参考となりましたら幸いです。

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