公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 循環取引は取引の実在性がない不正取引である。
- 循環取引は、循環取引と知らずに商流に参加してしまっているケースもあるので注意が必要である。
- 循環取引を起こした会社は、その時関与しなかった従業員の中にそのノウハウを受け継いでしまっているケースもありうるので、その後も注意する必要がある。
1.はじめに
日本公認会計士協会は2022年9月15日付で「循環取引に関する当協会の取組について(お知らせ)」を公表しました。
循環取引は、監査の過程で見つけることは容易ではないことが多いですが、監査を行う監査人は看過することがないように可能な限りの努力をする必要があります。
今回は、循環取引の例や特徴、循環取引が発覚した会社の注意点について記載します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.循環取引の形態例
日本公認会計士協会は、今回、循環取引に係る企業向けの注意喚起のリーフレットを作成しています。
この中で、循環取引の具体的な取引形態として①スルー取引、②Uターン取引(まわし取引)、③クロス取引(バーター取引)が挙げられています。
別に調べたわけではありませんが、循環取引ではこのうちUターン取引が多い感がします。この取引は、商品・製品が帳簿上、グルグルと複数の会社を経由する取引です。また、経由する過程で、少しずつ手数料が上乗せされていきます。
一方、代金は実際に支払われ、そのお金が同じようにグルグルと複数の会社を経由していきます。ただ、これを続けていくと、どこかでお金が払えなくなる会社が出てきて資金繰りが行き詰まる可能性があります。
3.循環取引で見られる特徴
この循環取引の特徴として、同リーフレットでは、(イ)取引先は実在することが多い、(ロ)資金決済は実際に行われることが多い、(ハ)会計記録や証憑の偽造又は在庫等の保有資産の偽装が行われることが多い、と記載されています。
これらに加えて、証券取引等監視委員会から毎年、公表されている「開示検査事例集」を見ていると、次のようなケースも見られます。
例えば、取引先は実在するものの、商流に入っている複数の会社の代表者が同じ人物であるというケースです。仕入先と販売先が同じ代表者であれば、帳簿の操作やお金の出し入れも容易となります。(このような取引先は、実在する会社であっても登記だけのペーパーカンパニーである可能性があります。会社の住所が住宅街にある民家やマンションの一室といった場合は要注意です。)
次に、商品・製品が直送取引という契約となっているケースです。
もちろん、直送取引となっていても、商品・製品は実際には動きません。しかし、直送取引とすることで、もともと自社に納品と出庫は行われないものとしておくことができます。
したがって、直送取引のときは要注意です。
また、循環取引であることを知らずに、商流の中に巻き込まれたというケースもあるようです。これは、かなり恐ろしいことです。取引先との力関係もありますが、新しい取引を行う場合は、取引スキームを十分に検討する必要があります。
4.循環取引が発覚した会社の注意点
循環取引は不正取引です。
そのため、証券取引等監視委員会によって循環取引が発覚した場合、金融商品取引法に基づく処分が行われます。また、社内には第三者委員会が設置され、経営改革が行われます。
そして、循環取引が発覚した場合、関係者は処分され、二度とこのようなことは起こさないとして、会社は新たなスタートを切ります。
このように、会社の体制や風土が刷新され、不正を起こさない会社に生まれ変わればよいですが、私は循環取引を行った会社はその後も注意する必要があると思っています。
理由は以下のとおりです。
(1)今回はイレギュラーな事件と片付けてしまっている
循環取引が従業員によって行われた場合、会社としては一部の従業員が起こしたイレギュラーな事件として捉えてしまっている可能性があります。
「開示検査事例集」の事例14を見ると、このような指摘があります。事例14の会社は、以前、海外子会社において架空取引が発覚したことがあったため再発防止策を実施していたものの、これは「海外子会社における取引リスクであるとして限定的に認識していた」ということです。そのため、「国内子会社についての取引実態・商流等に係る管理・点検を網羅的に実施しておらず」、事例14の架空取引を早期発見できなかった、ということです。
このように、発覚した不正取引をイレギュラーなものとして認識してしまうと、他の部署やグループ会社での不正取引を見逃してしまう可能性があります。その結果、また循環取引などの不正取引が発生する可能性があります。
(2)循環取引のノウハウが受け継がれてしまっている
従業員による循環取引が発覚した場合、循環取引に関与した従業員は当然、処分を受けます。この場合、退職となることが多いと思います。
しかしながら、循環取引に関与した当事者がいなくなっても、同じ部署の部下の中には、循環取引のノウハウを知ってしまっている人がいる可能性があります。
そのときは全く関与していなかったとしても、発覚後、例えば3年後とか5年後といったしばらくたった後に、自分の知っているノウハウを更に複雑化、巧妙化して行うという可能性もなきにしもあらずです。
例えば、販売ノルマが厳しい会社の場合、悪いこととはわかっていてもプレッシャーに耐えられず、魔が差したように自分が知っているノウハウを使って、再び循環取引を行ってしまうということはありえます。
このように、循環取引を起こした会社は、誰かにそのノウハウが受け継がれてしまっている可能性があるため、その後も注意する必要があるといえます。
5.おわりに
循環取引は、かなり巧妙な取引なので、発覚しにくいという特徴があります。
しかしながら、循環取引は実在性を伴わない不正取引であるため、絶対に起こしてはならない取引です。
そのためには、統制環境を始めとした内部統制の構築と運用により、通常とは異なる取引を見逃さないようにする体制が必要です。
今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。