公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 手書きで記帳を行っていると、決算が遅延したり、誤ったりするリスクがある。
- 会計ソフトを導入した場合、入力前の振替伝票の作成は不要である。
- 会計ソフトの導入コストを気にされる会社等が散見されるが、会計ソフトを導入すれば、コストを上回るメリットがあるので、ぜひ導入すべきである。
(本稿は私見です)
1.手書きのデメリット
国税庁は10月28日付で「帳簿の提出がない場合等の加算税の加重措置に関するQ&A 」を公表しました。
このQ&Aでは、記帳義務の適正な履行のため、納税者に対して会計ソフトの導入を勧めています。
以下はQ&A内の記載です。(赤字は筆者)
「記帳に当たっては、会計ソフトを利⽤することにより、日々の取引内容を入⼒するだけで、複式簿記による帳簿でも簡単に記帳することができますので、会計ソフトを利⽤した帳簿の作成をぜひご検討ください。 」
「手書きで帳簿を作成しようとすると、手間がかかるだけではなく、計算誤り等も発生しやすくなります。この点、会計ソフト等を利⽤することで、よりスムーズに、間違いが少ない形で帳簿を作成することが可能です。記帳義務の適正な履⾏に向け、その利⽤をぜひご検討ください。 」
この点は、私も同感です。
私も、手書きで、振替伝票、総勘定元帳、試算表、決算書を作成していた会社等を担当したことがありましたが、これは本当に時間がかかりますし、ときどき、貸借が合わないといったことも起こっていました。もちろん、貸借が合わないと、それ以後の作業も進みませんので、決算は遅延します。
したがって、会計ソフトは導入すべきですが、会計ソフトの導入においてコスト面を気にされる会社等は多く見られます。
しかしながら、会計ソフトを導入すれば、今回のQ&Aに記載されているような加算税の発生を防止できる可能性が高まりますので、その点を考えれば、会計ソフトの価格は高くはないと思います。
2.会計ソフトを使用している場合、手書きの振替伝票は不要
また、会計ソフトを使用していても、会計ソフトに入力する前の段階で、手書きで振替伝票を作成されている会社等も見たことがありますが、これも改善されるほうがよいです。
具体的には、手書きの振替伝票を作成するのではなく、会計ソフトに直接、仕訳を入力するという方法に変えるほうがよいです。
なぜかというと、手書きの振替伝票について、上長の承認を得たとしても、会計ソフトに入力したあとの入力内容を誰もチェックしていない場合、誤った数値が入力されたままとなってしまうリスクがあるからです。
例えば、手書きの振替伝票で、
(借方)売掛金 1,000 (貸方)売上 1,000
という正しい仕訳を計上していて、上長のチェックと承認も得られていたとしても、会計ソフトの入力時に
(借方)売掛金 100 (貸方)売上 100
と誤った仕訳を入力してしまい、さらに、その後、誰もチェックしていなかった場合、売掛金と売上が900ズレてしまいます。そうなると、売上の除外を疑われるおそれがあります。
もちろん、これは極端な例ですが、私は、実際に、振替伝票では正しい仕訳であったにもかかわらず、会計ソフトでは入力額が仕訳と異なっていたという事例を見たことがあります。
したがって、会計ソフトには直接、仕訳を入力し、会計ソフトから印刷した振替伝票を上長に回すという方法が望ましいといえます。
3.会計ソフト導入のメリット
もう約3年前となりますが、私は『税務弘報』(中央経済社)2020年1月号で、「税理士事務所にとっての業務拡大の機会に~顧問先への自動仕訳システム導入支援」という記事を寄稿しました。
この記事では、上記のように、振替伝票、総勘定元帳、試算表、決算書を手書きで作成していたため、翌月どころか翌々月になっても月次決算が締まらなかった株式会社が、会計ソフトを導入し、さらに自動仕訳も導入した結果、月次決算が概ね翌月8営業日で締まるようになり、劇的に改善した事例を紹介しました。
このように、会計ソフトの導入は、コストはかかるものの、そのメリットはコストを大きく上回ります。
したがって、会計ソフトはぜひ、導入すべきと考えます。
今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社や公益法人のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部ではガバナンスに関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、社会福祉法人監査などに携わる。執筆及びセミナーも多数。
【参考】
『税務弘報』2020年1月号(中央経済社)です。
「税理士事務所にとっての業務拡大の機会に~顧問先への自動仕訳システム導入支援」を執筆しました。
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