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フォルダ作成ルールを作ろう!|会計事務所の業務の属人化の解消事例

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • フォルダの作成が属人化されると、ファイルへのアクセスに時間がかかり業務が非効率となる。
  • 最上階の入口のフォルダは少ないほうがよい。
  • フォルダの階層はなるべく少ないほうがよい。
  • すでに開業している会計事務所で導入するためには、所長が強力に推し進めるのがよい。

1.はじめに

 会計事務所では、サーバー内にクライアントごとにフォルダを作って管理をしていることが一般的です。

 しかし、各クライアントのフォルダ内に作成された下層のフォルダは、各担当者が独自に作ったものであるため、属人化しています。そのため、クライアントごとに、資料が収納されているフォルダがバラバラであり、引き継いだ担当者は、クライアントごとに資料の収納場所を覚えなければならず、業務が非効率となり、生産性が低下してしまいます。

 そこで、今回は、業務の属人化を解消して業務の効率化を実現するために、会計事務所内では、フォルダの作成ルールを作るべきという案を説明したいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.フォルダ作成が属人化されると何が起きるのか

 最初に、フォルダの作成が属人化されると何が起きるのかを書いてみたいと思います。

 まず、フォルダの作成が属人化、つまり、フォルダ名やファイルの収納場所が、その担当者の判断で独自に作成されると、次のようなことが発生します。

 

 ①担当者が変わったときに、新しい担当者は、ファイルがどのフォルダに収納されているのかがすぐにわからない。そのため、ファイルの収納場所を覚えるのに時間がかかり、業務の引継ぎがスムーズに進まない。

 

 ②クライアントごとにフォルダの作成ルールが異なるので、クライアントごとにファイルの収納場所が変わってしまう。そのため、探したいファイルにたどり着くために、時間がかかる。

 

 このようなことから、フォルダの作成が属人化すると、業務が著しく非効率となります。

 次は、これらを例を使ってみてみます。

 

3.ファイルへのアクセスに時間がかかり非効率

 まず、上段の図はクライアントA社の資料を保存したフォルダの例です(注:この図は、このブログを作成するために、私の想像で作成したものです)。

 ここでは、例えば、消費税の届出書は「その他」フォルダに収納されています。

 

クライアントA社のフォルダ例

  一方、こちらはクライアントB社の資料を保存したフォルダの例です。

  ここでは、消費税の届出書は「確定申告」というフォルダに収納されています。

 

クライアントB社のフォルダ例

 このような状況で、ある担当者が、消費税課税事業者届出書を探そうとするとします。

 すると、A社のフォルダでは消費税の届出書は「その他」という名前のフォルダに入っています。

 しかし、B社のフォルダでは「確定申告」という名前のフォルダに入っています。

 

 このように、同じ資料でも、フォルダの作成が属人化してしまうと、収納場所が異なってしまうので、上記のように、新しく担当となった人は、まず、どこに何があるのかがわからないといったことが起こります。

 

 また、会計事務所では担当者は10社、20社といったように複数のクライアントを担当しますから、担当者が同じ人であっても、クライアントごとに収納場所が異なると、そのたびに「このクライアントでは、このファルダだっけ?」といったように、思い出しながら探すことになるので、時間がかかることになります。

 

 以上は、簡単な例ですが、実際にはさらに下層のフォルダもあるので、ファイルにたどり着くためには、もっと多くの時間がかかることになります。

 

 「そんなのは大した時間ではないではないか」と思われる人もいらっしゃるかもしれませんが、「塵も積もれば山となる」のことわざの通り、ちょっとの時間のロスも、それが積み重なれば、大きな時間のロスとなります。これは会計事務所にとって大きな損失です。

 

 また、こういったファイルへのアクセスに時間がかかると、その間にイライラして疲れてきてしまい、やる気が失せてくるという悪影響もあります。業務はスムーズに進めば、気分も乗ってきますので、よいパフォーマンスを発揮することもできます。

 

 したがって、ファイルの収納場所は、どのクライアントにおいても同じフォルダにして、ファイルへのアクセス時間を短縮することが必要です。

 

4.フォルダ作成ルールの事例~当事務所のケース

(1)「永久資料」と「年度資料」

 それでは、具体的にはどのように進めていけばよいのか、という点ですが、ここでは当会計事務所が行っている事例を紹介したいと思います。

 当会計事務所では、まず最上階に①永久資料②年度資料という2つのフォルダを作成しています。

 

 永久資料フォルダは、契約書、定款、税務署に提出した届出書や申請書といったように、年度によって変わることが少ないファイルを収納するフォルダです。

 ②年度資料フォルダは、各事業年度において作成した資料を収納したフォルダです。

 

 これは財務諸表監査で用いられている調書の整理方法を参考にしたものです(ちなみに、財務諸表監査では「永久調書」と「当座調書」という呼び方をしています。)

 

 まず、最初の段階では、年度が変わっても不変の資料であるか、その年度のみの資料であるか、といった分け方をするとよいと思います。

 

(2)「永久資料」の下層フォルダの分類法

 「永久資料」の下層フォルダですが、当事務所の場合は、番号をつけて、カテゴリー別に分類しています。

 まず、01~09までは契約時・設立時の資料を収納しています。

  • 01_契約書
  • 02_見積書
  • 03_定款
  • 04_履歴事項全部証明書
  • 05_設立届
  • 06_設立時の税務届出書

 といった具合です。

 

 同じような要領で、

  • 10~19は決算・税務申告書関連
  • 20~29は組織・規程関係
  • 30~39は経理関係
  • 40~49は公益法人関係(注:当事務所はクライアントに公益法人があるため)
  • 50~59は議案書・議事録関係

 といったようにカテゴリー別に分類し、資料を収納しています。

 

(3)「年度資料」の下層には各事業年度のフォルダ

 次に「年度資料」の下層フォルダですが、当事務所では「2021年度」、「2022年度」といったように、まず年度フォルダを作成しています。

 

 そして、その年度フォルダの中に、同じように番号をつけたフォルダを作成しています。

 当事務所の場合は、以下のフォルダを作成しています。

  • 00_訪問日・年間スケジュール
  • 01_月次分析(月次の試算表、仕訳日記帳、総勘定元帳などを収納しています)
  • 02_訪問メモ
  • 03_決算整理
  • 04_税金計算
  • 05_決算予測
  • 06_次年度予算
  • ※07~09は現在欠番
  • 10_質問・相談

 このように、どのクライアントにおいても、年度ごとに同じフォルダを作成しています。

 

 このようにすれば、どの担当者が見ても、どこに何があるのかが分かるようになり、ファイルへのアクセス時間が短縮されます。  

 

5.フォルダの階層のポイント

(1)入口のフォルダは極力少なくする

 ここまでは、フォルダの作成例を紹介しましたが、フォルダを作成する場合は、通常は階層化されます。そこで、フォルダを階層化するときのポイントも説明します。

 

 まず、フォルダの階層化にあたっては、最初の入口の最上階のフォルダ数は少なくすることをおすすめします。

 上記の例だと、「永久資料」と「年度資料」の2つのみとなっていますが、この入口のフォルダ数が多いと、その時点で探すのに時間がかかってしまい、非効率となってしまいます。

 したがって、入口の最上階のフォルダは2つか、多くても3つに絞るほうがよいでしょう。

 

(2)階層数も極力少なくする

 次に、2階層目以下のフォルダの作成のポイントですが、ここはなるべく階層数は少なくして、フラットな階層にする方がよいと思います。

 なぜかというと、階層が深くなるとクリック数が多くなり、アクセス時間も長くなりますし、だんだんとイライラしてしまうことになってしまうからです。

 したがって、3クリックか、4クリックあたりがよいと思います。

 

 上記の例だと年度資料の場合は、10月の試算表ファイルに行き着くためには、

 

「200_年度資料」→「2022年度」→「01_月次分析」→「10月試算表」→10月試算表ファイル

 

 となりますので、計4クリックで10月の試算表ファイルに行き着くことになります。

 

 イメージとしては、浅く広くといった感じでしょうか。

 

6.会計事務所で導入するためのポイント

 最後に、ここではすでに開業している会計事務所で導入するためのポイントとして私の考えを記載いたします。

 当事務所は、私が初代所長なので、自分が思い描いたように進めることができますが、すでに開業して何年も経っている事務所で、「フォルダ改革」を進めるとなると、想像以上の困難が発生すると予測されます。

 そこで、予測される困難とそれに対する方策を書いてみます。

(1)所長が強力に推し進める

 すでに開業して、職員も何人もいるという会計事務所では、属人化したフォルダを、一斉に整理することになりますが、重要なのは所長が強いリーダーシップをもって強力に進めていくことが必要であるという点です。

 

 言い換えますと、これを職員任せにしないということです。なぜかというと、この作業を職員任せにしてしまうと、なかなか進まない可能性が高いためです。というのは、職員は、それでも、ある程度、フォルダの位置関係に慣れてしまっているため、現状を変えたくないという意識が働くためです。

 したがって、多少、強引でもよいので所長が推し進めていくことが必要です。

 

(2)アウトラインを作成してコンセンサスを得る

 とはいっても、所長がすべて独断で進めてしまうと、職員からの反発も強くなりますし、現場も混乱してしまいます。

 そこで、まずフォルダの作成ルールについては、アウトラインを作成したうえで、職員の意見を募り、一定のコンセンサスを得ることが有効と考えられます。

 上記に上げた例は、あくまで当事務所の例であり、各会計事務所によって業務の違いもありますし、収納する資料も違います。また、さらに良い例もあると思います。

 フォルダ改革を実行する前に、事務所内でコンセンサスを得ておけば、作業は進みやすくなると思います。

 

(3)作業は総務部に依頼する

 ある程度の職員数がいる会計事務所では、通常、総務部があります。

 そこで、この統一フォルダの作成と、ファイルの移動といった整理作業は総務部に行ってもらうほうがよいと考えます。

 

 なぜかというと、コンセンサスを得たとしても、職員がフォルダの整理作業を行うと、なかなか整理作業が進まない可能性が高いためです。というのは、日々、会計や税務の業務を行っている職員にとっては、毎日、業務が忙しいのに、そんなことまでやってられないというのが本音だからです。

 

 したがって、フォルダの整理作業は、会計や税務の業務に携わらない総務部が行うほうが作業は進むと考えられます。

 

7.最後に

 すでに開業していて、職員数も何人もいるという会計事務所で、このフォルダ改革を行うとなると、事務所を挙げての一大プロジェクトになると思います。

 それだけに、この作業を行うためには、計画とスケジュールをしっかりと立てたうえで、目標期限を定めることが必要と考えられます。

 今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。 

 

【参考】Gドライブの場合

 当事務所ではGoogle Workspaceを導入していますが、Gドライブでは、Googleが検索サイトということもあり、ドライブ内で強力な検索ができます。

 また、Gドライブでは、フォルダに色を付けることができますので、視覚で分類することも可能です。例えば、永久資料の01~09の契約時・設立時フォルダは赤系統の色にするといったこともできます。

 

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