公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 現行の請求書等にインボイスの登録番号を記載しても法令上、問題はない。
- 事前記載するようにすれば、インボイス制度開始前に社内承認を早期に済ませることができる。
- システムトラブルの事前チェックも早めに行うことができるというメリットもある。
1.はじめに
インボイス制度が令和5年(2023年)10月1日から開始されます。
今回は、このインボイス制度開始前の日から現行の請求書等にインボイス登録番号を記載してもよいのかどうかについて説明します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.今から登録番号を記載しても差し支えない
まず、結論から申し上げますと、インボイスの登録番号は、今から現行の請求書等に記載しても差し支えありません。
この点はすでに国税庁の「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(以下「インボイスQ&A」)の問66に記載されています。
問66では、まず「(令和5年9月30日以前の請求書への登録番号の記載) 」というタイトルで、質問が以下のように記載されています。(「インボイスQ&A」問66から引用)
問66 当社は、令和3年10月に登録申請書を提出し、適格請求書等保存方式が開始される前(令和5年9月30日以前)に登録番号が通知されました。 令和5年9月30日以前に交付する区分記載請求書等に登録番号を記載しても問題ないですか。【令和4年4月改訂】 |
この質問の回答として「インボイスQ&A」では、
「区分記載請求書等に登録番号を記載しても、区分記載請求書等の記載事項が記載されていれば、取引の相手方は、区分記載請求書等保存方式の間(令和元年10月1日から令和5年9月30日まで)における仕入税額控除の要件である区分記載請求書等を保存することができますので、区分記載請求書等に登録番号を記載しても差し支えありません。 」
と記載されています(ゴシック、茶色、赤色は筆者)。
したがって、現在使用している請求書が現行の区分記載請求書等の要件を満たしていれば、登録番号を記載した請求書を今から発行しても法令上の問題はございません。
なお、問66では、適格請求書について、区分記載請求書等の記載事項に追加される事項が対照表で記載されています。
適格請求書での新たな記載事項は以下の3点となります。
- 登録番号
- 税率ごとに区分した課税資産の譲渡等の税抜価額又は税込価額の合計額及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
多くの請求書では、上記のうち登録番号以外の事項についてはすでに記載されていると思いますので、現行の請求書に登録番号を追加すれば、適格請求書の記載要件を満たすものと思われます。
最後に、注意点としては、請求書に登録番号を記載する場合は、登録番号の通知が来てから記載する必要があるという点です。
3.事前記載のメリット
では、いまから登録番号を記載した請求書を発行することにどのようなメリットがあるのでしょうか?
以下、実務上のメリットを記載してみます。
①社内承認を早期に済ませることができる
インボイス発行となると、さすがに経理部が事前承認なしに単独で発行するわけにはいきませんので、インボイスのフォームについて社内で稟議を回す、会社によっては取締役会の決議を経るといったことが必要となります。
インボイス制度は、令和5年(2023年)10月1日開始ですので、今年の10月分からインボイスを発行しても全く問題はありませんが、例えば直前の9月に決裁や決議をもらうとなると、何かと忙しくなったり、ややこしくなったりする可能性はあります。
例えば、インボイスのフォームを作ってみたところ、「登録番号の数字はこの大きさでよいのか?」、「登録番号の位置はここでよいのか?」、「現行の請求書は◯◯の表記がわかりにくいので、この際、フォームを一新してみてはどうか?」などという意見が出てくる可能性はあると思います。
このようにインボイス開始直前になって、社内からいろいろな意見が出てくると、経理の担当者は大変です。
そのため、このような社内調整は直前ではなく、早めに行っておくほうが実務上のトラブル回避のためにはよいと思います。
したがって、今から、インボイス登録番号を記載した請求書のフォームを作って社内での承認を頂いておくほうが、インボイス開始時においてスムーズに実務を進めることができると思います。
②システムトラブルの早期解決
販売管理システムで請求書を発行している場合、インボイス開始時期に作動させてみたところ、うまくインボイスが発行できなかったというケースも可能性としてはありえます。
そのため、早めに、実際の実務で、インボイス登録番号が記載された請求書を販売管理システムで発行してみて、システム上のトラブルが生じないかどうかを確かめておくとよいと思います。
また、販売管理システムによっては、インボイス対応のバージョンにしようと思ったら、思っていた以上の料金が必要だった、ということもありえます。
したがって、早めにシステム会社に見積りを取って、インボイス対応の予算を考えておく必要があります。
4.おわりに
すでに「インボイスQ&A」問66に基づいて、インボイス登録番号を記載した請求書を発行している会社等はあります。
インボイス制度は、わが国初の制度となりますので、想定外のトラブルが発生する可能性はあると思います。
したがって、早めに準備し、インボイス実務に備えることがよいと考えられます。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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