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「死蔵」となっている指定正味財産の振替方法|公益法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 令和5年(2023年)4月に、内閣府のFAQに問Ⅴ-4-⑬が追加された。
  • 使途が指定された寄附金の対象事業を廃止する場合、寄附者の死亡や相続人等の存在を確認できないといったことが起こると、新たな使途指定の意向を確認できず、この寄附金が「死蔵」となるおそれがある。
  • 実務でも、誰が何のために拠出したのかが不明となっている指定正味財産が見られる。
  • FAQ問Ⅴ-4-⑬では、このような「死蔵」となっている指定正味財産をいったん、一般正味財産の部の収益に計上し、その相当額を特定費用準備資金に積立てる会計処理が紹介されている。
  • この「死蔵となっている指定正味財産の振替については、理事会等による機関決定に基づいて行うことが望まれる。

1.はじめに

 令和5年(2023年)4月に、内閣府のFAQに問Ⅴ-4-⑬が追加されました。(FAQのページはこちらです。)

 内容は「使途が指定された寄附金について、対象となる事業が廃止され寄附者の意向確認ができない場合には、どのように対応すればよいでしょうか。」というものです。この内容は内閣府の公益法人メールマガジンの臨時号(2023年3月6日発行)に掲載されていたものです。

 今回は、この「死蔵」となっている指定正味財産の振替えにかかる会計処理について説明します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.「死蔵」となっている指定正味財産とは

(1)FAQ問Ⅴ-4-⑬による「死蔵」の例

 「死蔵」となっている指定正味財産の例について、FAQ問Ⅴ-4-⑬では、冒頭の1で以下のような場合が挙げられています。

 

 寄附者から使途が指定された寄附金の対象事業について

 ①長年実施してきたが時代のニーズに合わなくなったとして法人の経営判断により廃止する場合

 ②その他法人の責めによらない事情で廃止するような場合

 

 このような場合、「寄附者の死亡や、関係者(相続人等)の存在が確認できない等の理由により、法人が手段を尽くしても当該寄附金の新たな使途指定の意向を確認できず、結果、当該寄附金が「死蔵」されるおそれがあります。」とされています。

 

 寄付等によって受け入れた資産で、寄附者等の意思により当該資産の使途について制約が課されている資産は、公益法人会計上、指定正味財産として計上します(公益法人会計基準(注6))。

 そのため、受け入れた公益法人側としては、事業廃止等の理由により、他の目的に使用したくても、寄附者や相続人等がいないと、その確認をとれないので、勝手に他の目的に使用できません。その結果、指定正味財産が使用されずに残ったままになってしまうというわけです。

 このような状態が指定正味財産の「死蔵」です。

 

(2)実務でよく見られる「死蔵」の例

 以上は、FAQ問Ⅴ-4-⑬の例でしたが、実務では「指定正味財産」として計上されているものの、誰が何の目的で拠出したのかがよくわからないというものが時々見られます。

 そのため、この場合、使用することもできず、また、取崩すこともできず、そのまま貸借対照表の指定正味財産の部に計上されたままとなっているという公益法人が時々存在します。

 

 本来、指定正味財産は使途の制約がある財産なので、何らかの使途があるはずです。したがって、何の目的で拠出されたのかがはっきりとしないということは制度上はありえないはずです。

 このようなことが起こってしまう原因として、あくまで推測ですが、例えば、公益移行時に、寄付で受け入れた資産ということで、担当者がとりあえず指定正味財産に区分したものの、その後、人事異動でその担当者がいなくなってしまい、十分な引継ぎが行われないまま、現在に至ってしまったということもあるのではないかと思います。

 

 このように、実務では、そもそも何のために指定正味財産になったのかがよくわからないまま残っているため、「死蔵」となっているという例も見られます。  

 

3.「死蔵」の指定正味財産を振替えるときの会計処理

 指定正味財産について、制約が解除されたり、減価償却を行ったりした場合は、当該金額を指定正味財産の部から一般正味財産の部に振替え、当期の振替額を正味財産増減計算書における指定正味財産増減の部及び一般正味財産増減の部に記載しなければならないとされています(公益法人会計基準(注15))。

 

 すなわち、指定正味財産を使用した場合は、その使用分を一般正味財産の部の経常収益または経常外収益に計上し、それに対応する金額を費用として計上するということになります。そのため、これまでは「死蔵」となっている指定正味財産を振替えようと考えても、それに対応する費用が計上されないので、指定正味財産を振替えるだけの会計処理はできないものと考えられてきました。

 

 しかしながら、今回のFAQ問Ⅴ-4-⑬では、機関決定の上、指定正味財産増減の部から一般正味財産増減の部へ振り替え、当該寄附金相当額を他の公益目的事業の特定費用準備資金に積み立てるという会計処理が紹介されました。

 

 これに基づくと、例えば、以下の会計処理が考えられます。

 

【設例】

 公益社団法人○○協会は、指定正味財産として公益目的事業のA事業のために使用することを目的としたA事業寄付金10,000千円が計上されているが、このたびA事業を廃止することとなった。(特定資産として、A事業資金10,000千円が計上されている)

 寄附者は亡くなっており意思の確認は不可能であるが、この指定正味財産は、寄附者がA事業に使用することを希望して拠出したものであり、あくまで使途の希望であることから、使途の指定がないものと考え、今回、理事会の決議により、既存の公益目的事業のB事業の拡大のために特定費用準備資金として積み立てることとした。

 

 

①指定正味財産の振替え

 

(借方)A事業寄付金(指定) 10,000 (貸方)受取寄付金振替額(一般) 10,000

 

→これにより、正味財産増減計算書には、経常収益として受取寄付金振替額10,000千円のみが計上されることになります。

 

②特定費用準備資金の積立

 

(借方)B事業拡大資金 10,000 (貸方)A事業資金 10,000

 

→特定資産として計上されている「A事業資金」10,000千円を、「B事業拡大資金」に振替えます。ここは、単に、科目の振替となります。

 

 会計処理は以上となります。

 あとは、収支相償の計算を行うA(1)またはA(2)において、特定費用準備資金の積立額を計上します。これにより、この処理においては、収支相償の計算上、経常収益10,000と特定費用準備資金10,000のみなし費用が計上されるので、差引ゼロとなります。

 

4.おわりに

 FAQ問Ⅴ‐4‐⑬では、4で「今後、使途が指定された寄附金を新たに受け取る際、指定された使途に使用できなくなった場合の取扱いも事前に当事者間で明確にしておくことが推奨されます。」と記載されています。

 この取扱いは文書にして客観的にわかるようにしておくことが望まれます。

 

 また、「死蔵」となっている指定正味財産の振替については、理事会などの決議により、その使途の指定の解除について慎重な意思決定を行う必要があります。特にFAQ問Ⅴ‐4‐⑬ の2に記載されている、寄付金の法的性質を鑑みて、他の使途に用いることができる法的根拠を明らかにしておくことが必要です。

 

 指定正味財産は、もともとは寄附者等が何らかの使途を指定して拠出したものですし、多くの場合、比較的多額の金額であるため、「死蔵」となっているからといって、簡単に振替を行ってしまうと、寄附者の意図がないがしろにされ、私的に流用されるというリスクも考えられます。したがって、「死蔵」となっている指定正味財産の振替については、手続を規程等に定め、慎重な手続きを行うことが望まれます。

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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