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代表理事と業務執行理事の職務の執行状況の具体的な報告事例|公益法人・一般法人

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公益法人・一般法人の代表理事および業務執行理事は、原則として3ヶ月に1回以上、定款で4ヶ月を超える間隔で2回以上と定めた場合はその間隔で、自己の職務の執行の状況の報告を理事会に報告しなければならない。
  • この報告は、法人の事業の報告ではなく、あくまで「自己」の職務の執行の状況を報告する必要がある。
  • 報告内容の具体例としては、代表理事および業務執行理事の専決事項、過去に理事会で決議した事項のうち重要な事項の経過状況、行政庁による立入検査の指摘事項の内容などが考えられる。

1.はじめに

 公益法人(公益社団法人・公益財団法人)、一般法人(一般社団法人・一般財団法人)の代表理事および業務執行理事は、原則として3ヶ月に1回以上、定款で4ヶ月を超える間隔で2回以上と定めた場合はその間隔で、自己の職務の執行の状況を理事会に報告しなければならないとされています(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律(以下「一般法」)91条2項)。

 この報告について「具体的にどのような報告をすればよいのか?」というご相談がよく寄せられます。そこで、今回は、代表理事および業務執行理事による自己の職務の執行の状況の報告の具体例について説明します。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

2.自己の職務の執行状況の報告の目的

 まず、この代表理事および業務執行理事による自己の職務の執行の状況の報告を行わなければならない理由について記載します。

 

 公益法人・一般法人は、代表理事および業務執行理事が業務の執行にあたりますが、それは理事会の意思決定に基づく必要があります。そのため、理事会は、理事の職務の執行を監督することになります(一般法90条2項2号、197条)。そこで、この理事会の監督機能の実効性を確保する必要がありますが、その手段として、理事会において、代表理事および業務執行理事に自己の職務の執行の状況の報告を行わせているというわけです。

 

 そのため、この自己の職務の執行の状況の報告については、理事会への報告の省略は適用されず、実際に報告する必要があります(一般法98条2項、197条)。これは理事会の形骸化を防止し、理事会による理事の職務の執行の監督の実効性を確保するためです。(参考文献:『リーガルマインド会社法(第15版)』弥永真生、有斐閣)。

 

3.報告内容の具体例

 このような趣旨に基づくと、代表理事および業務執行理事による自己の職務の執行の状況の報告は、法人の事業の概況を報告するのではなく、あくまで「自己」の職務の執行の状況を報告する必要があります。

 したがって、報告内容の具体例としては以下の事項が考えられます。

 

(1)代表理事および業務執行理事の専決事項

 各法人においては、おそらく定款や理事の職務権限規程において、代表理事や業務執行理事の職務権限を定めていると思います。したがって、報告内容としては、この職務権限に基づいて行った専決事項の顛末を報告することが考えられます。

 

代表理事および業務執行理事の専決事項の例 報告例
年度事業計画や年度予算の策定および執行 四半期や半期における事業報告や予算の執行状況の報告
代表理事に決裁権限がある業務契約 重要な契約の内容とその実行状況の報告
職員の採用と任命の決定 職員の採用・任命の内容の報告
金融機関の口座の開設 開設した金融機関の口座の内容と開設目的の報告

(2)理事会決議事項のうち重要な事項の経過状況

 過去に理事会で決議した決議事項のうち、重要な事項についての経過状況を理事会に報告することも必要です。

 例えば、過去に理事会で決議した多額の借財(金融機関からの借入など)について、その後どのように使用し、残額がどれぐらいあるのか、返済は滞りなく行われているかといったことについて報告する必要があると考えられます。

 

(3)立入検査における指摘事項

 公益法人の場合は、約3年に1回、行政庁による立入検査があります。

 そのときに指摘された指摘事項の内容と、それに対する改善事項、改善後の状況などを報告することが考えられます。

 

(4)事業や経理において生じた重要な事項

 事業報告は決算承認理事会のときに議案として掲げられますが、事業報告は、主に公益目的事業の実行状況が対象となります。そこで、公益目的事業以外の事業等において発生した重要な事項を報告することも考えられます。

 例えば、台風や地震などで被害が生じた場合、建物や施設の被災状況、職員の安否状況、修繕の状況や発生した修繕費用といったことを報告することが考えられます。

 また、訴訟などが生じている場合は、裁判の状況や判決内容などを報告することが考えられます。

 経理における例としては、消費税のインボイス登録事業者となった旨や登録理由を報告するということも考えられます。

 

4.おわりに

 この報告は、理事会が理事の職務の執行を監督する上で大事なものなので、代表理事および業務執行理事は、自己の職務の執行の状況を具体的にわかりやすく報告する必要があります。

 また、この報告内容は議事録に記載し、公益法人の場合は事業報告等に係る提出書類の「別紙2」2(7)「社員総会等の開催状況について」において、この報告内容も漏れなく記載する必要があります。

 今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。

 

執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸

令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。

PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。

これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。


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