公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 後発事象には、修正後発事象と開示後発事象がある。
- 開示後発事象は、翌事業年度以後の財務諸表に影響を及ぼすものが対象となるので、影響の度合いなどを考慮して注記の必要性を判断する必要がある。
- 規模が大きい公益法人の場合、経理担当者は他部署とのコミュニケーションを円滑にし、期末日後に法人に発生した事象を把握する必要がある。
1.はじめに
今回は、公益法人会計における後発事象の注記と公益法人で想定される具体例について説明します。
公益法人では、後発事象についてあまり馴染みがないところが多いのではないかと思いますが、公益法人会計基準においても、第5(16)において、注記しなければならない事項として「重要な後発事象」が掲げられていますので、重要な後発事象が生じている場合は、注記を適切に行う必要があります。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.後発事象とは?
(1)公益法人会計基準には定義がない
まず、後発事象の定義について触れたいところですが、実は、公益法人会計基準において、後発事象の定義は記載されていません。前述のとおり第5の注記すべき事項の(16)で「後発事象」という用語が出てくるのみとなっています。
その他では、公益法人会計基準に関連する指針として、「「公益法人会計基準」の運用指針」(内閣府公益認定等委員会)、「公益法人会計基準に関する実務指針」(日本公認会計士協会)がありますが、これらにおいても後発事象の定義は記載されていません。
そこで、ここでは「後発事象に関する監査上の取扱い」(日本公認会計士協会)に基づいて、後発事象とは「決算日後に発生した会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を及ぼす会計事象」とします。
(2)開示後発事象と修正後発事象
後発事象には①修正後発事象と②開示後発事象の2種類があります。
①修正後発事象
修正後発事象とは、決算日後に発生した会計事象ではあるものの、その実質的な原因が決算日現在において既に存在しており、決算日現在の状況に関連する会計上の判断ないし見積りをする上で、追加的ないしより客観的な証拠を提供するものとして考慮しなければならない会計事象をいいます((「後発事象に関する監査上の取扱い」3(1))。
この修正後発事象は、監査実務においても難しい論点のひとつなので、今回は割愛いたします。
なお、修正後発事象は、発生した事象の実質的な原因が決算日現在において既に存在しているため、財務諸表の修正を行う必要があります。
監査実務では、引当金の計上となるケースがよく見られます。
②開示後発事象
開示後発事象とは、決算日後において発生し、当該事業年度の財務諸表には影響を及ぼさないものの、翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼす会計事象をいいます(「後発事象に関する監査上の取扱い」3(2))。
開示後発事象は、発生した事象が翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼすため、財務諸表に注記を行う必要があります。
なお、注記の対象となるのは「重要な後発事象」となるため、すべてが注記されるわけではなく、金額や質的な側面において重要性がある後発事象が注記の対象となります。
次の3では、この開示後発事象について、注記の対象となりうる具体例を記載します。
3.公益法人で想定される開示後発事象の具体例
ここでは、「後発事象に関する監査上の取扱い」5(3)の例示を参考として、公益法人で想定される具体例をあげてみたいと思います。
(1)法人が営む事業に関する事象
①公益目的事業の新規追加または廃止
②収益事業等の新規追加または廃止
③他の公益法人との合併
④重要な事業の譲受または譲渡
⑤建物や施設などにかかる重要な設備投資
このうち、①②については、例えば、期末日後に、それまで変更認定の申請中だった新しい公益目的事業について、行政庁の認定を受けた場合は、開示後発事象として注記の対象となると考えられます。
逆に、廃止について変更認定申請を行っており、行政庁の認定を受けたという場合も、開示後発事象として注記の対象となると考えられます。
(2)寄附金の受入などに関する事象
①寄附金の受入
②補助金や支援金などの受入
期末日後に、多額の寄附があった、新型コロナ支援のような緊急の多額の補助金や支援金の受入があったというような場合は、開示後発事象として注記の対象となると考えられます。
(3)資金の調達または返済等に関する事象
①借換え又は借入条件の変更による多額な負担の増減
②多額な資金の借入
建物や施設などを保有している公益法人の場合、金融機関からの融資を受けることが多くなります。そのような設備資金について多額の融資を期末日後に受けることになった場合や借換などを行った場合は、開示後発事象として注記の対象となると考えられます。
また、公益法人ではあまり見かけませんが、資金繰りの悪化により、緊急の融資を受けるといった場合も想定されます。
(4)法人の意思にかかわりなく蒙ることとなった損失に関する事象
①火災、震災、出水等による重大な損害の発生
②外国における戦争の勃発等による重大な損害の発生
③不祥事等を起因とする信用失墜に伴う重大な損失の発生
これらは、「後発事象に関する監査上の取扱い」5(3)の例示に掲げられているものと同じものをあげてみましたが、公益法人もこれらの事象は起こり得ます。
①については、重大な損害の発生が対象となるので、例えば台風、大雨、強風の影響で、会館や施設の窓ガラスが割れた、あるいは雨漏りが発生したといったレベルの事象は、短期間で修復は可能であり、通常は重大な損害ではありませんので、ここでの開示後発事象の対象とはなり得ません。
②については、諸外国に施設を保有している公益法人は多くはないと思いますが、紛争地域に施設を保有しており、その施設が破壊された、あるいは職員全員が避難するため閉鎖となったといった場合は、開示後発事象の対象となり得ます。
また、諸外国との交流を支援する公益目的事業を行っている場合、対象としている国が紛争当事国となった場合、交流が停止することも想定されます。このような場合も開示後発事象の対象となり得ます。
③については、公益法人の場合、例えば、パワハラなどのハラスメント行為、あるいは役員または職員による多額の横領などにより、法人の信用やブランドが大きく落ち込み、補助金や助成金などが減額されることになった、あるいは一定期間の活動自粛となったということが想定されます。
(5)その他
①重要な経営改善策又は計画の決定
②重要な係争事件の発生又は解決
③重要な資産の担保提供
④投資に係る重要な事象(取得、売却等)
こちらも「後発事象に関する監査上の取扱い」5(3)の例示とほぼ同じです。
このうち、②については、翌事業年度以後の財務諸表に影響を及ぼすという観点で見ますので、例えば、特許権などの権利の侵害、取引のトラブル、公害等の発生といった事由で訴訟され、もし敗訴した場合は多額の損害賠償金が発生する可能性があるといったケースが想定されます。
公益法人の場合は、公害等のケースは滅多にないと思いますが、権利侵害で訴訟されるケースはありえます。
4.おわりに
開示後発事象は、期末日後に発生した事象のうち、公益法人の翌事業年度以降の財務諸表に影響を及ぼすものが注記の対象となります。したがって、すべてを開示しなければならないというものではないことに注意する必要があります。
また、規模の大きい公益法人の場合、経理担当者は他の部署で発生した事象をタイムリーに把握する必要があります。そのためには、経理担当者は他の部署とコミュニケーションを円滑に行い、他の部署で発生した事象の把握について漏れがないようにする必要があります。
今回のブログが、公益法人の開示上の注意点として実務の参考となりましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。
公益法人に関する無料相談実施中!