公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 国税庁は、令和6年(2023年)3月1日以後終了事業年度用の勘定科目内訳明細書について様式を変更することを公表した。
- 様式変更された勘定科目内訳明細書では、インボイス登録番号または法人番号を記載する欄が設けられた。
- インボイス登録番号または法人番号を記載した場合、「名称(氏名)」および「所在地(住所)」の記載を省略することができるとされた。
1.はじめに
令和5年(2023年)6月30日付で、国税庁は「「法人課税関係の申請、届出等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」を公表しました。
これによると、勘定科目内訳明細書について、令和6年(2024年)3月1日以後終了事業年度用のものについては、インボイス制度導入にあたって、その様式が変更されることになりました。
今回は、この勘定科目内訳明細書の様式変更と、インボイス制度への対応策を記載します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
2.変更部分の概要
(1)「登録番号(法人番号)」欄の設置
令和6年3月1日以後終了事業年度用の勘定科目内訳明細書は、一部科目において「登録番号(法人番号)」を記載する欄が設けられました。
この欄が設けられた科目は以下のとおりです。
- 受取手形
- 売掛金(未収入金)
- 仮払金(前渡金)
- 貸付金及び受取利息
- 固定資産(土地、土地の上に存する権利及び建物に限る。)
- 支払手形
- 買掛金(未払金・未払費用)
- 仮受金(前受金・預り金)
- 土地の売上高等
- 地代家賃等
- 工業所有権等の使用料
- 雑益、雑損失等
なお、インボイスの登録番号を記載する場合は「T」を含めて記載する必要があるということです。
(2)登録番号等の記載によるメリット
「登録番号(法人番号)」欄に、登録番号又は法人番号を記載した場合には、例えば、売掛金(未収入金)の場合は、「名称(氏名)」欄及び「所在地(住所)」欄の記載を省略しても差し支えないとされました。
「名称(氏名)」、「所在地(住所)」の記載は、例えば売掛金の場合、毎期取引している得意先であれば、前事業年度のデータを繰り越して使用することができますが、新規の取引先の場合は、白紙の状態から入力しなければなりません。
会計事務所が税務申告書を作成している場合、クライアントが勘定科目内訳明細書入力用の資料を作成していれば、会計事務所も勘定科目内訳明細書の作成を行いやすいですが、そうではない場合、会計事務所が相手先の名称、住所をインターネットで調べて、入力することになります。名称に関しても、会社の正式名称がわからないと、前株か後株かといった細かいところを調べる必要が出てきます。
また、個人事業者の場合は、インターネットで調べても住所がわからない場合もあります。この場合は、クライアントに質問することになります。そのため、新規の入力の場合は、結構手間がかかります。
特に、契約初年度だと、全くの白紙の状態から税務申告ソフトに入力しなければならないので時間がかかります。
しかしながら、今回の様式変更により、インボイスの登録番号又は法人番号を記載すれば、「名称(氏名)」、「所在地(住所)」などの情報は省略できるということになったので、作成する側の負担は軽減され、事務作業の効率化に結びつくことが期待されます。
3.登録番号の整理
インボイス制度は、令和5年(2023年)10月1日から開始されます。
また、今回の勘定科目内訳明細書の様式変更は、令和6年(2024年)3月1日以後終了事業年度分ということなので、令和6年(2024年)3月を決算期とする法人から対象となります。
これらを踏まえると、取引先ごとに、
①インボイス登録をしている法人または個人はインボイス登録番号
②インボイス登録をしていない法人は法人番号
を、それぞれ紐づけて整理しておくことが望まれます。
また、勘定科目内訳明細書の記載に際して、「名称(氏名)」、「所在地(住所)」の記載を省略するのか、それともインボイス登録番号等を記載しても、従来どおり記載するのか、名称(氏名)だけを記載するのか、といった方針も決めておく必要があります。
4.おわりに
インボイス制度の導入により、法人税など他の税目においても、インボイスを反映した変更が行われるようになってきました。
税務申告ソフトも、この様式変更により、改訂版が公開されるものと予想されます。したがって、税務申告ソフトの改訂版が公開されたら、必ずインストールしておく必要があります。
今回のブログが実務の参考になりましたら幸いです。
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
令和元年に独立開業。株式会社等のガバナンス強化支援、公益法人コンサルティングなどを行う。
PwCあらた有限責任監査法人ガバナンス・リスク・コンプライアンス・アドバイザリー部では、内部統制や内部監査に関するアドバイザリーや財務諸表監査を行う。
これまで、上場会社の財務諸表監査・内部統制監査、アメリカ合衆国への往査、海外子会社のJ-SOX支援、内部監査のコソーシング、内部統制構築支援、公益法人コンサルティングなどに携わる。執筆及びセミナーも多数。
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