公認会計士・税理士 森 智幸
KEY POINTS
- 社員総会や評議員会の開催にあたっては、法令上の手続を遵守する必要がある。
- 決算承認理事会開催日との間隔、招集の決定など、法令上のミスが発生しやすい手続には十分な注意が必要である。
- これらの法令上のミスが発生すると、立入検査では確実に指摘事項となる。
はじめに
公益法人や一般法人は、年1回、定時社員総会、定時評議員会を開催する義務があります。
この定時社員総会や定時評議員会は、社員や評議員にとっては意思決定を行う場として重要です。そのため、開催手続には細心の注意が必要です。
しかしながら、社員総会や評議員会の開催にあたっては、法令で求められた手続を逸脱している事例も見られます。
今回は、社員総会や評議員会の開催に際して、誤りやすい事例を5つ説明します。
なお、本稿は私見であることにご留意ください。
【目次】
このブログを書いた人
執筆者:公認会計士・税理士 森 智幸
慶應義塾大学商学部卒。2019年に独立開業。企業の内部統制の強化、内部監査のコソーシングなどガバナンス強化を専門としている。また、公益法人会計は10年以上の実績があり、会計・税務に加えて、法制度にも詳しい。
PwC Japan有限責任監査法人では、国内・海外の企業のガバナンス強化支援などに携わる。
これまで、上場会社の財務諸表監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、法人税・消費税の税務などを行う。
主な著作は『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』(中央経済社)。『税務弘報』(中央経済社)、月刊『企業実務』(日本実業出版社)などの雑誌への寄稿も多数。
【法令等の略称】
- 公益社団法人、公益財団法人・・・公益法人
- 一般社団法人、一般財団法人・・・一般法人
- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律・・・一般法
- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行令・・・施行令
- 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則・・・施行規則
- 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律・・・認定法
- 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則・・・認定法施行規則
1.誤りやすい事例5選
①中14日以上あいていない
決算承認理事会の開催日と社員総会または評議員会の開催日は中14日以上の間隔をあける必要があります(一般法129条①、199条)。
これは、理事会を設置している法人の場合、定時社員総会または定時評議員会の日の2週間前の日から5年間、計算書類等(計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書、監査報告または会計監査報告を含む)を主たる事務所に備え置くことになっているためです。また、この計算書類等は理事会の承認を得たものである必要があるためです。
この「中14日」を「2週間前」と誤る例は、現在でも多いようです。これは「中14日」という表現が誤解を招きやすいためと推測されます。これを間違わないようにするには社員総会または評議員会の日は、決算承認理事会の日から「+15日以上」とおぼえておくとよいでしょう。
②招集の決定を行っていない
社員総会または評議員会を招集する場合、理事会で、日時、場所、目的を決定する必要があります(一般法38条、181条)。
多くの公益法人では、決算承認理事会のときに招集の決定を行っていますが、ときどき、この招集の決定を行っていない法人もあります。特に、小規模な公益財団法人では、理事や評議員も少人数で、よく知っている人達のためか、評議員会の開催にあたり、理事会で招集の決定を行っていないケースもありました。
なお、社員または評議員全員の同意があるときは招集の手続を経ることなく社員総会または評議員会を開催することはできますが(一般法40条、183条)、理事会での招集の決定は省略できないので、注意しましょう。
③承諾がないのに電子メールで招集通知を発している
理事会を設置している法人の場合、社員総会や評議員会の招集通知は原則として書面で行わなければなりません(一般法39条2項、182条1項)。
電子メールなど電磁的方法で招集通知を発することも可能ですが、その場合は、社員又は評議員の承諾を得る必要があります(一般法39条3項、182条1項)。
具体的には、あらかじめ、当該通知の相手方に対し、その用いる電磁的方法の種類及び内容を示し、書面又は電磁的方法による承諾を得なければなりません(施行令1条1項)。
理事会の場合は、書面に限られていないので、電子メール等で開催通知を送っても問題はありませんが、社員総会または評議員会の場合は、条件があるので注意しましょう。
④計算書類等を添付していない
定時社員総会または定時評議員会を開催する場合、計算書類及び事業報告並びに監査報告(会計監査人設置法人の場合は会計監査報告を含む)を招集通知に添付して、社員または評議員に提供しなければなりません(一般法125条、199条)。なお、附属明細書は不要です。
私の経験では、小規模な公益財団法人では、招集通知に計算書類等を添付してないケースが見受けられました。
計算書類等を添付しなければならない理由は、社員や評議員が、社員総会や評議員会で決議を行うにあたり、準備と考慮の機会を与える必要があるためです。当日、いきなり計算書類を見ても考える時間がありません。これでは、適正な社員総会や評議員会の運営ができなくなります。これは法人のガバナンスの面で問題があります。
したがって、招集通知には必ず、計算書類等を添付しなければなりませんので、送付する際には十分注意しましょう。
⑤個別選任していない
理事、監事など役員の選任にあたっては、複数人を一括決議で行うのではなく、各候補者について個別に選任決議を行う必要があります。
一括決議を行ってしまうと、社員または評議員の意思が反映されないことになり、理事の選任過程の適正性を確保できなくなってしまいます。したがって、各候補者ごとについて選任の議案を設けて、それぞれの議案について決議を行っていくことになります。
なお、「移行認定又は移行認可の申請に当たって定款の変更の案を作成するに際し特に留意すべき事項について 」(平成20年10月10日 内閣府公益認定等委員会)では、「議決権行使書面による議決権の行使の結果、社員総会の開催前に、複数の役員の選任議案のすべてについて過半数の賛成がそれぞれ得られているような場合であって、社員総会において、議長が複数の役員の選任議案を候補者全員一括で決議(採決)することを出席している議場の社員に諮り、それに異議が出ない等のときは、役員候補者全員の選任議案を一括で決議(採決)することも許容され得る。」という記載もあることから、一定の場合は一括決議も許容されるといえます。
2.おわりに
以上の論点については、一部はこれまでのブログでも説明してきました。
公益法人の新制度が始まってから10年以上が経過しましたが、人事異動などにより、引き継ぎがうまく行われず、法令上の手続きミスが発生することがあります。また、うっかりミスで誤るということもあります。しかしながら、社員総会や評議員会の開催において、法令上の手続きミスがあると、立入検査のときに、確実に指摘事項となってしまいます。
対策としては、チェックリストの作成や、複数人でのチェックが有効です。
今回のブログが、公益法人の皆様の実務に役立つことを願っております。
公益法人に関する無料相談実施中!
- 公益法人の理事会、社員総会、評議員会、監事に関するご相談
- 定期提出書類の作成方法に関するご相談
- 公益法人の内部統制に関するご相談
などを承っています。
当事務所は、会計・税務のみならず、機関運営支援、定期提出書類の作成支援など公益法人の運営サポートを行ってきた実績があります。
詳細はお問い合わせください!
【過去のブログ】
この記事が役立ったら、ぜひSNSで共有してください!