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独立する公認会計士が税理士登録をすべき理由とそのメリット

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公認会計士は、自身の業務の幅を狭めないためにも税理士登録をするほうがよい。
  • 会計系の業務を行う場合でも、税務上の注意点などまでアドバイスできれば、クライアントからの信頼が高まる。
  • 税理士登録をすると、一定の義務が生じるが、それ以上に得られるものがある。

はじめに

 6月になると、大手監査法人をはじめとして、退職する公認会計士が増えてきます。監査法人は6月決算が多く、また、3月決算の財務諸表監査も5月を過ぎると一段落するという時期なので、タイミング的にはこの時期が退職しやすい時期となります。

 先日も、一般社団法人研友会の役員会のため、大阪市内のホテルに行ったところ、別のフロアでは、ある大手監査法人がパートナー等の送別会を開催していました。

 そこで、今回は、これから退職する公認会計士が、独立してキャリアを形成するにあたって、税理士登録すべきかどうかについて述べたいと思います。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

【目次】

執筆者

公認会計士・税理士の森智幸の写真

公認会計士・税理士 森 智幸

慶應義塾大学商学部卒。2019年に独立開業。企業の内部統制の強化、内部監査のコソーシングなどガバナンス強化を専門としている。また、公益法人会計は10年以上の実績があり、会計・税務に加えて、法制度にも詳しい。

PwC Japan有限責任監査法人では、国内・海外の企業のガバナンス強化支援などに携わる。

これまで、上場会社の財務諸表監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、法人税・消費税の税務などを行う。

主な著作は『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』(中央経済社)。『税務弘報』(中央経済社)、月刊『企業実務』(日本実業出版社)などの雑誌への寄稿も多数。


1.税理士登録はすべきか?

①業務の幅が広がる

 まず、これから独立する公認会計士は税理士登録すべきかどうか、という点ですが、私は税理士登録すべきと思っています。

 なぜかというと、税理士登録することで、業務の幅が広がるからです。逆に言うと、税理士登録しないと業務に制限ができてしまい、業務の幅が狭まってしまうからです。

 

 これを具体的な例を挙げてみてみます。

 拙著『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』(中央経済社)「3  登録前の税務相談は無料でもやらない」でも説明しましたが、税理士でない者は税理士法上、税務相談を行うことはできません。

 この「税務相談」については、P15において「要は、税金計算などに関わる個別的、具体的な相談が「税務相談」に該当するといえます」と記載しました。これを、具体例を挙げてみてみます。

 

 例えば、建物(例えば鉄骨鉄筋コンクリート造)の減価償却について相談されたとします。

 このとき、「建物の耐用年数は何年ですか?」と相談された場合、この相談は一般的な相談にあたるため、税理士でなくても回答しても問題はありません。

 しかしながら、「当社の建物の減価償却費は何円ですか?」という相談は個別的、具体的な相談となるので、税理士法上の税務相談にあたります。したがって、もし、税理士でないにもかかわらず、このような相談について「貴社の建物の減価償却費は◯万円です。」と回答してしまうと税理士法に抵触してしまうことになります。

 

 これを聞くと、おそらく、ほとんどの公認会計士は「減価償却費は、会計の話ではないのか?」と思われると思います。実は、私も、そのように思いましたし、これを知ったときはびっくりしました。

 しかし、言われてみれば、減価償却は法人税法にも規定されている経理方法なので、法人税法の範疇であるのは確かです。

 

 この例からわかることは、会計の話だと思っていたことが、実は、税法の話だったというリスクがあるということです。そのため、自分は税理士ではないから会計のことしか行っていないと思っていても、自分では気づかずに、税理士法に違反してしまうリスクがあるわけです。

 しかし、税理士登録をしていれば、このようなリスクを回避できます。したがって、自分が行っている業務が税務に抵触しないかどうかという点を気にせずに、業務に集中することができます。

 

②回答に厚みが出る

近畿税理士会館の写真
大阪・天満橋にある近畿税理士会館

 それと、もう一点ですが、やはり、会計の業務を行う場合であっても、法人税法、消費税法、所得税法に関わる論点や注意点までクライアントに述べるほうが、質問に対する回答に厚みがでます。そして、それがクライアントからの信頼に繋がります。その意味でも、税理士登録をして税務の知識も身につけるほうがよいでしょう。

 

 独立後は、会計系のコンサルティングなどを行う公認会計士も多く見られます。自分は税理士登録はしていないので、税務は行っていないと思っていても、思わぬところで税理士法に抵触してしまう可能性もありえますが、税理士登録をしていれば、その可能性は低くなります。

 また、前述のように、会計系の業務においても、税務面のコメントも述べることで、クライアントからの信頼も高くなります。

 

 税理士登録したからといって、必ずしも税務申告書の作成といった税理士としての仕事をしなくても構いません。会計系のコンサルティングなどの業務を行う場合も、税理士登録をしておくことが、キャリア形成において有用です。

 

2.税理士登録することのジレンマ

 しかしながら、税理士登録をすると、税理士としての義務が生じることになります。この点がジレンマとなります。

 

 主なものを挙げると、以下のとおりです。

  • 税理士法の適用対象となる
  • 税務相談会への参加義務が生じる
  • 税理士会及び支部に対する会費が発生する
  • 研修受講義務が生じる

 このうち、特に、税務相談会については拙著「30 税務相談会には必ず参加する」にも記載したように、もし担当となった場合は、参加する必要があります。しかしながら、税務の実務経験がない公認会計士にとっては、税務相談会で一般の納税者との質疑応答は、現実的にはなかなか厳しいものがあります。

 

 このように、税理士登録をすると、様々な義務が生じるため悩ましいところですが、乗り越えることで、自身のキャリアを高めることができるので、ぜひ登録を検討していただきたいところです。

 

3.おわりに

 今回は、公認会計士が監査法人退職後、独立する際に税理士登録をすべきかどうかという点について述べてみました。

 

 なお、独立する公認会計士の方におかれましては、拙著『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』(中央経済社)に、公認会計士が税務において勘違いしやすい点や間違いやすい点を「登録・開業編」、「税理士法・綱紀編」、「税務編」、「クライアント編」の4つに分けて説明していますので、ぜひお読みください。

 

 独立時においては、特に「第Ⅰ章 登録・開業編」と「第Ⅱ章 税理士法・綱紀編」を特に注意して読まれるとよいでしょう。とりわけ、税理士法には十分注意してください。「ちょっとぐらい大丈夫だろう」と思っては絶対にだめです。「ちょっと」が命取りになることがあります。

 

 今回のブログが独立を目指す公認会計士の方の参考になれば幸いです。

 

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