· 

公益法人の理事会の決議の省略手続完全ガイド - 4つの重要書類と注意点

公認会計士・税理士 森 智幸

KEY POINTS

  • 公益法人・一般法人の理事会の決議の省略では「提案書」、「同意書」、「確認書」、「議事録」を作成する必要がある。
  • 「議事録」の作成を失念するケースがあるので、注意する必要がある。
  • 「理事会の決議があったものとみなされた日」とは、全ての理事の同意書が到達した日であり、法人が任意に設定した日ではないので、十分な注意が必要である。

 

はじめに

 今回は、公益法人・一般法人における理事会の決議の省略に関する、「提案書」、「同意書」、「確認書」、「議事録」の様式例(ひな型)を紹介します。

 社会福祉法人では、所轄庁(都道府県、市町村)がこれらの様式例をホームページで紹介している例が多く見られますが、公益法人における行政庁では、なかなか見ることがありません。なお、社会福祉法人では、一般社団法人及び一般財団法人に関する法律96条が準用されていますので、これらの様式は、根拠となる条文の書き方だけ変えれば、公益法人・一般法人でも使用できます。

 そこで、今回は京都市が公表している社会福祉法人の様式例を元に、公益法人用の「提案書」、「同意書」、「確認書」、「議事録」の様式例を作成してみました。

 なお、本稿は私見であることにご留意ください。

 

(参考としたページは京都市の「社会福祉法人制度改革について」というページ内の、「平成29年度 社会福祉法人役員等研修会及び指導監査等説明会について(平成29年5月22日実施)」というコーナの「参考様式集」です。)

 

【目次】

執筆者

公認会計士・税理士の森智幸の写真

公認会計士・税理士 森 智幸

慶應義塾大学商学部卒。2019年に独立開業。企業の内部統制の強化、内部監査のコソーシングなどガバナンス強化を専門としている。また、公益法人会計は10年以上の実績があり、会計・税務に加えて、法制度にも詳しい。

PwC Japan有限責任監査法人では、国内・海外の企業のガバナンス強化支援などに携わる。

これまで、上場会社の財務諸表監査、アメリカ合衆国への往査、公益法人コンサルティング、法人税・消費税の税務などを行う。

主な著作は『独立する公認会計士のための税理士実務100の心得』(中央経済社)。『税務弘報』(中央経済社)、月刊『企業実務』(日本実業出版社)などの雑誌への寄稿も多数。


【法令等の略称】

  • 公益社団法人、公益財団法人・・・公益法人
  • 一般社団法人、一般財団法人・・・一般法人
  • 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律・・・一般法
  • 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行令・・・施行令
  • 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律施行規則・・・施行規則
  • 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律・・・認定法
  • 公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律施行規則・・・認定法施行規則

1.「決議の省略」とは

 理事会の「決議の省略」とは、理事会を設置している公益法人・一般法人においては、定款で定めることにより、理事が理事会の決議の目的である事項について提案をした場合において、その提案につき理事の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をし、かつ、監事が当該提案について異議を述べなかったときは、当該提案を可決する旨の理事会の決議があったものとみなすとすることができるという制度です(一般法96条)

 

 要件は、①定款で定めていること、②理事の全員が同意すること、③監事が意義を述べないこと、の3点となります。

 

 これは、主に、軽微な事項について決議するときに行われます。

 決議があったものとみなすものの対象については、法令上制限はありませんので、どのようなものについても決議の省略を行うことができますが、ガバナンスの観点からは、重要性の高い項目ではなく、軽微な事項を対象とすることが望まれます。

 

2.「提案書」の様式例

 まず、理事全員と監事全員に「提案書」を送付する必要があります。

 以下は、理事に送付する提案書と監事に送付する提案書の様式例です。

 

 注意点としては、特別の利害関係がある理事は議決に加わることができないので(一般法96条)、その場合は、同意書の提出に代えて、その旨を連絡してもらうようにするという点です。

 

(1)理事に送付する提案書

令和 年 月 日

 

理事各位

 

公益社団法人○○協会

理事長  ○○ ○○  

 

提案書

 

 一般社団法人法及び一般財団法人に関する法律第96条の規定に基づき(注1)、理事会の目的である事項について、下記のとおり提案します。

 つきましては、下記の提案事項に御同意いただける場合は、令和 年 月 日までに、別紙の同意書を御送付いただきますようお願い申し上げます。

 

提案事項

 第1号議案 経理規程の改訂について

  経理規程第○○条に定める○○を○○とすること。

 第2号議案 ○○○○について

  ○○○○・・・・・

 

(注1)一般財団法人、公益財団法人の場合は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第197条において準用する同法第96条の規定に基づき」とします。

 

(2)監事に送付する提案書

令和 年 月 日

 

監事各位

 

公益社団法人○○協会

理事長  ○○ ○○  

 

提案書

 

 一般社団法人法及び一般財団法人に関する法律第96条の規定に基づき(注1)、理事会の目的である事項について、下記のとおり提案します。

 つきましては、下記の提案事項に御異議がない場合は、令和 年 月 日までに、別紙の確認書を御送付いただきますようお願い申し上げます。

 

提案事項

 第1号議案 経理規程の改訂について

  経理規程第○○条に定める○○を○○とすること。

 第2号議案 ○○○○について

  ○○○○・・・・・

 

(注1)一般財団法人、公益財団法人の場合は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第197条において準用する同法第96条の規定に基づき」とします。

 

3.「同意書」の様式例

 理事に対しては「同意書」を一緒に送付する必要があります。

 この「同意書」は理事全員から回収することになります。

 

令和 年 月 日

 

公益社団法人○○協会

理事長 ○○ ○○様

 

公益社団法人○○協会

理事 ○○ ○○  

 

同意書

 

 一般社団法人法及び一般財団法人に関する法律第96条の規定に基づき(注1)、理事会の決議事項に係る下記の提案に同意します。

 

提案事項

 第1号議案 経理規程の改訂について

  経理規程第○○条に定める○○を○○とすること。

 第2号議案 ○○○○について

  ○○○○・・・・・

 

(注1)一般財団法人、公益財団法人の場合は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第197条において準用する同法第96条の規定に基づき」とします。

 

4.「確認書」の様式例

 一方、監事に対しては「確認書」を一緒に送付する必要があります。

 「確認書」も監事全員から回収する必要があります。

 

令和 年 月 日

 

公益社団法人○○協会

理事長 ○○ ○○様

 

公益社団法人○○協会

監事 ○○ ○○  

 

確認書

 

 一般社団法人法及び一般財団法人に関する法律第96条の規定に基づき(注1)提案のあった下記提案事項について、異議を述べません。

 

提案事項

 第1号議案 経理規程の改訂について

  経理規程第○○条に定める○○を○○とすること。

 第2号議案 ○○○○について

  ○○○○・・・・・

 

(注1)一般財団法人、公益財団法人の場合は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第197条において準用する同法第96条の規定に基づき」とします。

 

5.「議事録」の様式例

 理事会を決議の省略の方法により行った場合であっても、議事録の作成は必要です(一般法97条1項)。この議事録の作成を失念するケースがよくあるので注意する必要があります。

 また、「理事会の決議があったものとみなされた日」は、全ての理事の同意書が到達した日となります。法人が任意に設定した日ではありませんので、この点も十分注意する必要があります。

 なお、この点については、例えば、滋賀県の「公益法人立入検査・事業報告等の審査でよくある指摘・指導事項 」などでも指摘されています。

 

理事会議事録

 

 下記のとおり、一般社団法人法及び一般財団法人に関する法律第96条の規定に基づき(注1)、理事会の決議があったものとみなされたので、理事全員の同意があったこと及び監事全員の異議がなかったことを証するため、本議事録を作成し、議事録作成者が記名押印する。

 

1 理事会の決議があったものとみなされた事項の内容

(1)第1号議案 経理規程の改訂について

 経理規程第○○条に定める○○を○○とすること。

(2)第2号議案 ○○○○について

 ○○○○・・・・・

 

2 決議事項を提案した者の氏名

  理事 ○○ ○○

 

3 理事会の決議があったものとみなされた日(注2)

  令和 年 月 日

 

4 議事録の作成に係る職務を行った者の氏名

  理事長 ○○ ○○ 印

 

(注1)一般財団法人、公益財団法人の場合は、「一般社団法人及び一般財団法人に関する法律第197条において準用する同法第96条の規定に基づき」とします。 

(注2)全ての理事の同意書が到達した日がみなし決議の日となります。

 

6.おわりに

 今回は、理事会の決議の省略で使用する文書の様式例を紹介しました。

 これらの書類はすべてそろっていないと、行政庁による立入検査で指摘事項となってしまいますので、十分な注意が必要です。

 私の経験では、一般企業等が公益法人を併設しているケースで、このような書類の作成準備ができていない、あるいは不十分ということがよく見られました。このような一般企業等に併設している公益法人では、その一般企業等の経理部員が、通常業務と並行して公益法人の運営も行っていることが多く、十分な時間をとることができなくなります。そのため、公益法人の運営において、不備が出てくるということが多くなるわけです。

 これらの書類は、法令上、非常に重要なので、本稿の様式例を参考にしていただけますと幸いです。

 


公益法人に関する無料相談実施中!

森 智幸公認会計士・税理士事務所では、法人税・消費税の税務申告、ガバナンス強化支援、公益法人コンサルティング、経営改善支援などを行っています。

詳細はお問い合わせください!


この記事が役立ったら、ぜひSNSで共有してください!